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(17日、大相撲夏場所5日目)

 阿炎は口から血を流して花道を引きあげ、笑った。「楽しかった」。大恩人の鶴竜との初対戦は、敗れてなお幸せそうだった。鶴竜がいなければ、いま、相撲をしていなかったからだ。

 2013年夏場所で初土俵を踏み、突っ張りを武器にとんとん拍子で番付を上げた。15年春場所で十両になり「簡単じゃんって、天狗(てんぐ)になった」。そして、鼻をへし折られた。勝てず弱気になり、太ろうと食べたのになぜかやせた。在位4場所で幕下転落。「おれには厳しい」と、解体業者に転職する手はずを整えた。

 転機は16年九州場所。同じ一門だった鶴竜の付け人にけが人が出たため、代役に選ばれた。「(鶴竜に)付いちゃってやめられなかった」。黙々と稽古し、勝ってもおごらず、負けても腐らない横綱の姿を見た。「偉いのに威張らないし、温かい。こういう人になりたいと思った」。目標ができた。今年の初場所で新入幕。2場所続けて10勝を挙げ、横綱と当たる番付まで駆け上ってきた。

 横綱初挑戦の相手がその鶴竜になった。「この一番だけは逃げたくない」。取組前、緊張でひざが震えた。息を整え、両手で突いて出た。いなされてもがむしゃらに前へ。再びいなされた時、両手をついた。「夢中でどうなったかわからない。でも、逃げなかった。強くなったのは見せられたと思う」

 まだ差は大きい。ただ、元付け人のことを問われた鶴竜は「自分と当たる時点で、成長したということ」とうれしそうに話した。(菅沼遼)

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