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 江戸時代中期に生まれた、多色刷りの浮世絵版画「錦絵(にしきえ)」。その立役者の一人である鈴木春信(はるのぶ、1725?~70)の企画展が、あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)で開催中だ。すぐ近くの大阪市立美術館(大阪市天王寺区)では江戸の戯画に着目した展覧会が開かれている。両展ともに、あでやかな色や絵に込められた遊び心が、見る者を引きつけ、江戸の暮らしを生き生きと感じさせる。

まとめて150点 貴重な機会

 恋人たちに、家族の日常、江戸の評判娘の姿も。春信は身近な主題を取り入れることで、錦絵の大衆化に貢献した。「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」では、ボストン美術館(米国)が所蔵する春信作品が、関連する作品と合わせて150点展示されている。春信作品は8割以上が海外にあり、日本でまとめて見られる機会は貴重だ。

 錦絵以前は、2、3色ほどの素朴な色刷り版画(紅摺絵〈べにずりえ〉)しかなかった。「見立三夕(みたてさんせき)『定家(ていか) 寂蓮(じゃくれん) 西行(さいぎょう)』」は、春信が手がけた貴重な初期の紅摺絵。3人の歌人を若い娘に置き換え、和歌にちなんだモチーフが描き込まれている。

 多色刷りの木版画技法が発達したのは、知識人の間で、絵に暦を盛り込んだ「絵暦(えごよみ)」の交換が流行したのがきっかけだった。展示室には、春信が手がけた絵暦が複数並び、着物の柄や風景に隠された文字を探すのは、クイズのようで楽しい。

 一方、人々の日常を描いた絵からは、当時の風俗が感じられる。ねずみを飼っていたり、虫籠を手に夕涼みをしていたり。「風俗四季哥仙(ふうぞくしきかせん) 神楽月(かぐらづき)」は、七五三の宮詣でをする家族を描いた絵だ。女の子が父親に肩車をされており、後ろを母と姉が続く。また「浮世美人寄花(うきよびじんはなによす)」と題して、人気の美人や評判の町娘を、花になぞらえて描いた。

 実物を見る際は、紙の質感にも注目だ。春信の錦絵には、厚みのある上質紙が使われ、紙に圧力をかけて凹凸をつけるなど、立体的な表現が施されている。また、長く公開されていなかったため、保存状態が良く、当時の鮮やかな色彩を楽しめる。

 6月24日まで。5月21、28日休館。一般1300円など。あべのハルカス美術館(06・4399・9050)。(松本紗知)

ユーモラスな庶民の感覚

 特別展「江戸の戯画」は、18世紀の大坂で滑稽な人物を軽妙に描いて人気を博した「鳥羽絵(とばえ)」をはじめ、その影響を受けた葛飾北斎や歌川国芳、河鍋暁斎(きょうさい)らの浮世絵や版本など約280件を紹介する。

 鳥羽絵の名は「鳥獣人物戯画」の筆者と伝わる鳥羽僧正覚猷(かくゆう)に由来し、そこに描かれた人物は、小さな目に低い鼻、大きな口に極端に細長い手足といった特徴を持つ。18世紀の大坂で鳥羽絵本として出版され、明治に至るまで人気を得た。18世紀後半に大坂で活躍した耳鳥斎(にちょうさい)は鳥羽絵を洗練させ、ユーモラスな「地獄図巻」などを残した。

 鳥羽絵は江戸にも広まり、北斎は手元に鳥羽絵本を置き、参考にしたという。彼の「鳥羽絵集会」シリーズの中には、同じ構図の作品も含まれる。このほか、江戸の戯画の名手・国芳の金魚を擬人化した「金魚づくし」シリーズや、幕末から明治にかけて活躍した暁斎の「暁斎漫画」なども展示され、江戸の庶民の笑いのセンスを味わうことができる。

 6月10日まで。月曜休館。一般1400円など。問い合わせは大阪市総合コールセンターなにわコール(06・4301・7285)。(池田洋一郎)