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チャイナ・スタンダード(世界を席巻する中国式)

 カンボジアのリゾート地シアヌークビルは「第2のマカオ」と呼ばれる。中国資本によるカジノ建設が相次ぎ、その数は年内に40カ所を超える見通しだ。中国から観光客や不動産投資家が押し寄せる。街の中国語学校は現地の子どもや大人で満員だ。校長は「この街では英語より中国語が重要だ」と言う。

 カンボジアでは中国マネーの恩恵で年7%の経済成長が続く。中国の影は国家統治のあり方にも及ぶ。首相のフン・センは7月の総選挙を前に最大野党を解党させた。追いかけるのは、一党支配の中国が示す「民主化なき発展」の道だ。

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 欧米の影響力に陰りが見えるなか、中国の存在感が増している。中国的なシステムや価値観が生み出す「チャイナスタンダード」が既存の秩序を揺るがしつつある。民主主義や人権といった普遍的価値も例外ではない。

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 フン・セン政権は昨年10月、「カンボジアのカラー革命」と題したビデオを公表した。カラー革命とは2000年ごろから、旧ソ連・東欧や中東諸国で独裁や腐敗に抗議して政権を倒した民主化運動を指す。ビデオは、デモ隊が治安部隊とぶつかる映像、野党が躍進した13年のカンボジア総選挙の際の衝突、さらには旧ポル・ポト政権時代の大虐殺を思わせる大量の頭蓋骨(ずがいこつ)を映し出した。野党をのさばらせて「カラー革命」を許せばカンボジアにも悲劇が再来するとの暗示だ。

 同じようなビデオは、中国にも存在する。13年、軍幹部を養成する国防大学が制作した。昨年9月、その中国から帰って来たフン・センは「中国とカラー革命の研究所を設立する」と発表。「反カラー革命」は、個人の自由より国家の安定を重んじる中国的な統治に傾く国々を結ぶ合言葉となる様相だ。

 中国の価値観は先進国にも影を及ぼす。ノルウェーのノーベル委員会が10年、中国共産党の支配を批判した人権活動家の劉暁波(リウシアオポー)にノーベル平和賞を贈ると、ノルウェー産のサーモンは中国の税関を通らなくなった。秋波を送るノルウェーを中国が許したのは6年後。この間の対立を経て、ノルウェーの国会内には超党派の親中グループができた。「自由や民主主義は大事だが、『我々の道が唯一の道』というのは傲慢(ごうまん)だ」とメンバーは話す。

 欧州連合(EU)は昨年6月の国連人権理事会で、中国の人権状況を批判する声明を準備したが、ギリシャの反対で挫折した。ギリシャは10年の経済危機でEU内で「お荷物」扱いされた時、中国に支えられた恩義がある。今はEU内の「代弁者」となっている。=敬称略