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 全編をインドネシア西部のアチェ州で撮影した、日本とインドネシアなどの合作映画「海を駆ける」が26日から公開される。アチェ州は2004年のスマトラ沖地震の巨大津波で約17万人が犠牲となった。未曽有の被災地を舞台に、人間の道理や思惑に関わりなく禍福をもたらす自然の摂理を、ひとりの謎の男に体現させた、奇妙な後味のするファンタジーだ。

 オリジナルの脚本も手がけた深田晃司監督(38)は、前作「淵(ふち)に立つ」が16年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した新鋭。東日本大震災に見舞われた11年の暮れ、日本とインドネシアの大学がアチェ州の州都バンダアチェで共催した防災シンポジウムに撮影係として参加した時から、この地で映画を撮りたいと思い始めたという。

 「漂着船の残骸も撤去せずに周りで観光土産を売っている。家族を失った人に心情を聞くと、神様が望んだことなんだから仕方がないと割り切っている。津波の受けとめ方が日本とはまるで違っていたことにカルチャーショックを感じたことが発端でした」と語る。

 物語は、日本と現地の若者の、たわいもない触れあいをスケッチしながら、彼らに寄りそう正体不明の男(ディーン・フジオカ)の思いもよらない行動にふり回されてゆく。

 冒頭で海中から出現した男には記憶がなく、言葉も発しないが、手をかざしただけで、生き物の命をよみがえらせることも、奪うこともできる超能力者だった。「彼は人間の価値観とは全く異質の論理で動いている。人間を救ったり殺したりしても説明のつく理由がない。自然の象徴のような存在です。映画を見終わった後、人間は不条理な自然と、どう向き合えばいいのか、じっくりと考えてみる手がかりにしてほしい」

 撮影期間は昨夏の約1カ月。直前まで連日の豪雨だったが、雨をやませる祈禱(きとう)師を雇って撮り始めると、にわかに晴天が戻り、クランクアップしたとたん、土砂降りになったという。自然は、この映画には非情にならなかったようだ。(保科龍朗)