【動画】修学旅行生らを乗せたバスに向けて手書きの「ユーモアCM」やメッセージボードを掲げる店主=佐藤栞撮影
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 「日本一男前なふすま屋の店」と看板を掲げる奈良市六条町のマルタカ商店。店の前に掲げられた手書きの「ユーモアCM」や、バスで店の前を通る修学旅行生に向けたメッセージボードで、店主の高橋貞夫さん(67)が道行く人を笑顔にさせている。

 店の正面の道は、薬師寺から奈良市街へ続く観光バスの定番コース。春と秋の修学旅行シーズンには、一日に何十本ものバスが通る。信号待ちのバスが店の前に止まったとたん、高橋さんは作業の手を止めて一目散に外へ駆け出す。

 「ひゅ~! いぇ~い!」と叫びながら手を振り、生徒の目を引くと、すかさず手作りのメッセージボードを頭の上に。

 「おっちゃんみたいな男前と結婚しぃや」「修学旅行の良い思い出ができますように」――。ボードには、エッセイスト襖貼太郎(ふすまはりたろう)として自費出版した著書の宣伝も。生徒たちの顔に一気に笑顔が広がる。

 「本の宣伝のために始めたのが半分、あとは親心が半分。奈良を楽しんで帰ってもらいたくて」と高橋さん。「おかげでいい思い出ができました」「みんな楽しく、心に染みるメッセージをいただきました」などと生徒からはがきが送られてくることもある。

 ユーモアCMは、模造紙に筆で書かれ、店の前に貼られている。過去には「ほんまええ男やここのふすま屋 スケートの羽生選手みたいや あんまりほめなや ほめられあきたデー」など。その時の話題に絡めて、月に1度ほどのペースで新作を公開する。

 35年ほど前、建材メーカーを退職して店を開いた。ふすまや障子張り、網戸の張り替えの仕事は仕上がりにこだわり、2人の職人とともに丁寧に取り組む。作業場には「仕事中私語厳禁」の貼り紙があり、ユーモアCMとは対照的。

 ユーモアCMはとにかく目立って店の名前を覚えてもらいたいと、生活のために始めたそうだ。「子どもが3人いたからもう必死やったね」と振り返る。

 妻の久美子さん(65)は「最初はもう恥ずかしくて恥ずかしくて。でも、子どもたちを無事に育てられたのはCMのおかげですね」。

 高橋さんは襖貼太郎の筆名で、これまでのユーモアCMや、エッセーなどを収録した「60歳青春ど真ん中」を2010年に自費出版。現在、次回作「70歳青春ど真ん中」の出版を目指し、仕事の傍ら執筆活動にもいそしんでいる。

 「年寄りだからって楽したらあかん。我々の世代が若者を支えていかないと。体の続くかぎり続けていきますよ」(佐藤栞)