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 知的障害者が健常者とともに通常学級で学校生活を過ごし、共生社会の実現につなげていこうという「インクルーシブ教育」。神奈川県教育委員会が、全国でも珍しい高校段階での実践を始めて1年が経った。当初は懸念が寄せられたものの、生徒間の交流も増えているという。実践校を訪ねた。

 「難しいなあ」。5月上旬、県立足柄高校(南足柄市)の2年生が学ぶ「ベーシック数学」の授業では、「通分」の問題に頭をかきながらも、懸命に取り組む生徒5人の姿があった。知的障害者が申請して取得できる「療育手帳」の所有者や、手帳はないが出身中学校で「手帳相当」とされた生徒たちだ。

 この授業の場所は、通常学級とは別の、教員による個別対応が可能な部屋だ。5人はふだん通常学級で授業を受けているが、内容に応じてこの部屋で学ぶ。生徒5人に計3人の教員がつき、一つひとつの設問を丁寧に解説する。「そうか、そうやって解けばいいのか!」との声が上がると、教員の表情が和らいだ。

神奈川県内の実践推進校は3校

 県教委がインクルーシブ教育の実践推進校としたのは足柄、茅ケ崎、厚木西の県立3高校。小中学校で同様のインクルーシブ教育を受け、中学校長が推薦した生徒について各校が面接を行い、受け入れるかどうかを決める。定員は3校とも各学年に最大21人。今春入学者を含めて厚木西に計34人、茅ケ崎に計26人、足柄に計12人が在籍している。

 インクルーシブ教育ではこうした生徒ごとに個別の教育計画を定め、集団授業と個別授業を使い分けるが、基本的な居場所は健常者と同じクラスだ。健常者と一緒の授業でも複数の教員がつき、教員はプロジェクターを活用し、当日の授業の流れを大きく板書するなど工夫を凝らしている。

 足柄高校に入った知的障害のある生徒は、数学と英語などでは独自に編成されたカリキュラムのもとで学ぶ。だが、できる限り健常者の生徒と同じ教室で学校生活を送る。笹谷幸司校長は「(障害のある生徒がいる学級では)学習面と生活面の両方で、複数の教員が対応できるようにしている」と話す。

 同校でインクルーシブ教育を受ける生徒の募集地域は足柄上郡と南足柄市だが、保護者からの要望を踏まえて、2019年度から小田原市と足柄下郡も加わる。笹谷校長は「特定の教員だけでなく多くの教員が関わりノウハウを引き継がないといけない」と語る。

就職見据えたキャリア教育も

 茅ケ崎高校では、個別対応やわかりやすさを心がける授業などが足柄高校と同様に行われているほか、卒業後の就職も見据えたキャリア教育も重視する。

 清宮太郎校長によると、入学までの9年間を特別支援学校で過ごした生徒や、発達障害がある生徒もおり、「教員も戸惑いながら、アイデアを出し合って何とか乗り切った1年だった」と振り返る。最初はクラスの片隅で小さくなっていたものの、健常者の生徒と活発に交流している生徒もいるという。

 受け入れ開始前は、保護者や卒業生などから「学校のレベルが下がる」「授業の進度が遅れる」などと懸念の声が寄せられていた。開始後、3校ともそうしたクレームはないという。

 障害のある人の講演会などの際に各校の生徒が提出した感想文には、自分の学校でのインクルーシブ教育を踏まえて「障害があるといっても、普通に接するのが一番いい」「全国に広がって欲しい」などの記述があったという。

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