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杉本昌隆七段の「棋道愛楽」

 棋士は職業柄、パーティーへの出席は多い方でしょう。タイトル戦の前夜祭がそうです。勝負の前の憩いのひととき。関係者やファンへの感謝を込めたパーティーです。次によくあるのが、昇段や棋戦優勝などで開くお祝いの会。仲の良い棋士の昇段祝賀会は祝福の気持ちが半分、「次こそ自分が」と気合を入れる気持ちが半分です。

 当然ながら棋士が多く参加しており、「この前の将棋の形勢どうでした?」「いやあ〇〇飛車が良くなくて」なんて会話もよく出ます。貴重な情報収集の場でもあるのです。

 最近は女性ファンの参加が半数とも言われます。棋士の素顔が見られる機会でもあり、対局中の険しい顔とはうって変わってにこやか。趣味の話で冗舌な棋士、意外と酒癖の悪い棋士……。おっと、これ以上は書けません。将棋の新しい魅力を見つけられるかも知れませんよ。

 6月10日に名古屋で開かれた藤井聡太七段の昇級・昇段を祝う会には、地元の将棋関係者や将棋ファン、保護者に付き添われた将棋好きのお子さんら約500人が出席しました。勝負の世界を離れた藤井七段の元兄弟子や、小学生時代の将棋仲間たちも。日本将棋連盟の佐藤康光会長も出席し、私が定期的に出演する番組のアナウンサーもプライベートで駆けつけてくれました。棋士になってから藤井七段のパーティーは2回目ですが、本人も前回よりリラックスしているように見えました。

 控室では、室田伊緒女流二段らと笑顔で記念撮影に応じていました。同門で会う機会も多いとはいえ、藤井七段といると写真を撮りたくなるもの。実は師匠の私ですらそうなので、その気持ちはよく分かります。同郷の大先輩、西村一義九段まで「孫に頼まれたので」と記念写真を要望され、私がカメラマンに。パーティーならではの和やかな雰囲気でした。

 祝賀会は夕方からでしたが、その前に参加者への棋士の指導対局もありました。これは奨励会や女流の私の弟子たちが中心です。私の弟子以外にも、木村一基九段や神吉宏充七段、石田和雄九段門下の勝又清和六段らの棋士も飛び入りで指してくれました。ちなみにこれはノーギャラで、会を盛り上げるための先輩から藤井七段に対するお祝いです。

 ホテルのパーティーですから当然おいしい料理も出ます。私も若いころはこれが楽しみの一つでした。しかし、知り合いが増えてくるとあいさつ回りでそうもいかず、ここ何回かは料理を食べた記憶がありません。

 私のテーブルの前に置かれた、まるでコース料理のような魚介の前菜。はしをつけようとしたまさにその瞬間、「一緒に写真をお願いします」。席を移動して色々な人と話しているうちにその場からどんどん遠ざかり、もう二度とそのテーブルに戻ることはありませんでした。あの料理、どうなったんでしょうね……少し残念です。

 主役の藤井七段は、用意された料理を結構食べられたとか。将棋同様、チャンスを逃さないものだと感心しました。

 大盤解説あり、お土産の扇子あり。年齢、立場を超えて藤井七段を祝福する人たちの集まりは一体感があり、本当に良い会でした。自分の活躍がファンの人に喜んでもらえ、その気持ちを一緒に共有できる。棋士冥利(みょうり)に尽きる瞬間で、私たちの原動力でもあります。

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 すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2006年に七段。01年、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。