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 日本国憲法の改正をめぐって議論が続いています。改憲か、護憲か。平和主義の理念を明確にする「護憲的改憲」という立場も注目されるようになっています。しかし、最も多いのは、「正直、よくわからない」派ではないでしょうか。憲法との出会い、私にとっての憲法など、みなさんから寄せられた声を紹介しつつ、ともに考えます。憲法って?

皆で考えることが大切

●昔からのルールブック

 「18歳選挙権をきっかけに中学で衆院選の模擬投票を経験し、憲法に関心を持ちました。憲法とは、自己抑制ができない私たち人間が定め、はるか昔から守られてきたルールブックです。一方で、必要なところは改善していかなければとも思います。ただ、憲法改正を承認するのに必要な『過半数』の分母が、有権者数ではなく有効投票総数と、改正のハードルが低く設定されていることは疑問です。憲法は国民のもので、その意思が最大限に反映されるべきだと考えます」(大阪府 田中美空 16)

●全身が震えるほど歓喜

 「現憲法が施行された1947年5月3日は、日本人が初めて法の下で平等となり、コペルニクス的転回をした日です。私は旧制高等女学校3年生。敗戦後、学業もおぼつかない日常でしたが、全身がふるえるほどの歓喜を覚えました。女性であるが故に入れなかった大学や学部へも進学可能となり、私たちは新天地を目指して飛び立ちました。現憲法の恩恵を忘れることはできません」(愛知県 林京子 85)

●改憲論じる主役は学生

 「憲法改正について若い人たちはどう考えているのでしょう。改憲の結果の是非は、未来に託される。まさしく今の大学生の世代が国の中枢となるころ、現実となるだろう。今なぜ改憲かを論じる主役は、高齢者ではなく学生のみなさんではないですか」(神奈川県 高橋一利 71)

●我が子通し人権考える

 「息子は四肢に障害があり、グループホームに入っています。車いすで一時帰宅する際、バスの乗降に数分かかります。周囲に『どうもすみません』と会釈しますが、時に無遠慮な視線を感じたり、『お互いさまですから』と笑顔が返ってきたり。息子との日常は、基本的人権を改めて自覚させられます。誰もが生まれながらに持っていて、互いを尊重し支え合い、未来永劫(えいごう)変えてはならない普遍の権利です」(神奈川県 古藤嘉久次 72)

●女性=家事 平等の妨げ

 「中3の娘の学校で、憲法の授業を参観しました。平等権に関する条文を先生が説明し、生徒たちが『平等ではない事例』を考え、話し合って発表します。男女の不平等、障がい者の問題など、経験を踏まえて挙がりました。女性が家事をするのが当たり前と受け止めるような心のあり方が、平等の妨げになっていると学んでいました。私たちの内面が変わらないと、憲法が理念とする国民の幸福は実現しません。みんなで考えることが大切だと、高校時代以来33年ぶりの授業で気づきました」(神奈川県 木村賢治 50)

●価値守るのは我自身

 「幼いころ、白装束で街頭に立つ傷痍(しょうい)軍人の姿を目にした。核実験や安保闘争、ベトナム反戦運動の時代を生き、憲法を強く意識してきた。ただ、関心は前文と天皇制を定めた1条、戦争放棄の9条だけだった。安倍政権の発足後、初めて最後まで読んでみた。12条に『自由及び権利は、国民の不断の努力によって』保持しなければならないとある。憲法の価値を守るのは我々自身だという起草者の強い意志を感じる」(愛知県 三好一雄 66)

●民意高める気高いもの

 「憲法には容易に到達し得ない高い目標が掲げられています。例えば『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』を定めた25条。『一部の人々についてはこれを当てはめない』とは決して言いません。一人では到達できないから国民全員が手を結び『目標達成』を目指し、その努力を重ねるうちに民意が高められるのです。憲法とは『気高いもの』です」(東京都 福本俊 75)

●難民受け入れに悩む友

 「スイスでは、自宅に難民を受け入れるか、各家庭で話し合うそうです。現地に住む日本人の友人は、難民の方がもし悪いことをしたら、と悩んでいました。しかし、そう考えること自体、色眼鏡で見るようで落ち込んでいると。これこそ基本的人権の尊重についての究極の問題と思います」(福島県 浅見美奈子 56)

自分の将来関わる課題

 「幸福という言葉は、教科書のどこに出ているでしょう?」

 東京学芸大付属世田谷中3年の公民の授業。秋山寿彦先生(61)の問いに、生徒たちが教科書を一斉にめくります。ややあって「ありました。憲法13条、幸福追求権です」。

 自分にとって幸福につながることを具体的に書き出していこう、と秋山先生。家族、友人、部活、衣食住……各自が思いつく語句を関連づけて用紙に書き込んでいくのを待ち、先生が語りかけます。「一人一人の幸福が大切と憲法は言っている。でも『私だけ良ければ』ではない」

 先生は黒板に「公共の福祉に反しない限り」と書き、テレビをつけました。ウルグアイの大統領だったホセ・ムヒカ氏による国連演説のビデオです。「行き過ぎた消費が地球を傷つけている」「発展が幸せを邪魔してはならない」――。

 教科書の後半に出てくる「SDGs(持続可能な開発目標)」と、日本国憲法を往復しながら授業は進みます。生徒たちは気づきます。「実は私たち、幸せじゃないのかも」

 秋山先生は、憲法や政治を「ひとごと」ではなく、自分の将来に関わる課題として受け止められる力を養いたい、と授業を模索してきました。生徒たちが国際社会の中で日本の未来をどう描いていくか、そのときひとつの「軸」になるのが憲法だと考えるからです。

 今年度から始めた試みに「写憲」があります。奈良の修学旅行で経験する「写経」にヒントを得て、憲法の前文と9条をノートに書き写します。

 矢島弘奈さん(14)は最初「意味はあるの?」と疑問に思ったと言います。でも、一字一句を写すうちに気づきました。「前文には『理想』が繰り返し出てくる」「平和と自由を『われらとわれらの子孫のために』誓っている」。黙読では、頭にしっかりと残らなかった言葉でした。

 「戦争の体験者は減っているけど、ニュースで世界のあちこちの戦争を見聞きします。普段の生活の中で憲法とつながりのあることがないか、探していきたい」。矢島さんはそう考えるようになりました。(吉田晋)

私たちの文化が権力を縛る 江藤祥平・上智大准教授(36)

 憲法と言えば政治家や法律家、学者が考えるもの、あるいは「憲法=9条」と考える人も多いと思います。でも憲法はもっと「身近」なものです。実は、私たちは毎日のように、憲法を使っています。SNSへの書き込みも、新聞やテレビで情報を得ることも、ぜんぶ憲法がうたう「表現の自由」の行使です。私は、この表現の自由を土台に私たちが作り上げる「文化」の方が、憲法9条よりもよっぽど大切だと考えています。

 憲法はしょせん言葉を並べたものにすぎません。実際、表現の自由についても、憲法には「保障する」としか書いてありません。それをもとにどういう文化を築いていくのかは、私たち次第です。例えば、SNSでどんな発言をするのかは、相手を尊重しながら、自分たちでラインを決めていくしかない。批判し批判される中で、このラインをより納得できるものに引き直していくことが、よりよい文化を作っていくということなのです。

 この文化をしっかり築いておかないと、国家が介入してきます。ヘイトスピーチ対策法がその一例です。これでヘイトスピーチが規制されると喜んでいてはいけません。本来、私たちの文化がしっかりしていれば、法律に頼る必要はなかったわけですから。日頃から議論をして私たちの文化を作っておかないと、国家が介入してきたときに正しいかどうかを見極めることができず、気づけば自由を奪われているなんてことにもなりかねません。

 だから、憲法が権力を縛るというより、むしろ表現の自由によって作りあげた私たちの文化が権力を縛るのです。「憲法9条を守れば平和が維持できる」「憲法を変えれば未来が開ける」――。憲法そのものに希望を託すような声もありますが、憲法の条文が変わるかどうかよりも、私たちが日々どのような文化を築き上げていくかが大切なのです。(聞き手・木村司)

     ◇

 「憲法」というだけで権威主義的で堅苦しく、人を寄せつけない。もっとよい名前はないのでしょうか? 憲法学者の江藤祥平さんにそう聞くと、例えば「この国のかたち」はどうでしょうか、と返ってきました。憲法という言葉は静態的、つまり止まっている印象ですが、「かたち」には動きが伴う。憲法上の自由は、過去から受け継ぎ、未来へ手渡していくもの。憲法を考えるうえで「時間の要素」が大切だというのです。

 それならば、と提案したのは「私たちのかたち」です。憲法は、国のためではなく私たちのためにある。また、憲法それ自体が頼りになるのではなく、憲法を根っこにした私たちの日々の営み、「不断の努力」が、私たちが生きていくよりどころになる、つまり私たち次第なんだと学んだからです。

 憲法記念日をはさみ、年配の方を中心に貴重な声を多くいただきましたが、この試みがまさに不断の努力そのものだと気づかされました! さらにみなさんと考えるヒントを探るため、憲法についての疑問やもっと知りたいことなど、とくに若い世代からの声をお待ちしています。(木村司)

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憲法についての疑問や意見をお寄せ下さい。asahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・3545・0201、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞社 編集局長室「フォーラム面」へ。

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