[PR]

 「20世紀最後の巨匠」。奇才ピカソがそう呼んだフランス出身の画家、バルテュス(1908~2001)の油絵は国内の美術館に1枚しかない。その絵の買い付けに深く関わったのが、名古屋・栄の老舗百貨店「丸栄」だ。名古屋駅周辺の再開発などに押されて閉館が決まったが、美術界ではその高い信用力と目利きが広く知られてきた。(山下奈緒子)

 「20世紀最後の巨匠」。奇才ピカソがそう呼んだフランス出身の画家、バルテュス(1908~2001)の油絵は国内の美術館に1枚しかない。愛知県の女性が6億円で「白馬の上の女性曲馬師」を購入し、昨年、愛知県美術館に寄贈したものだ。美術館は一昨年も女性の寄付金(5億5千万円)でムンクの「イプセン『幽霊』からの一場面」を入手。収集力の高さが、話題になった。

 2件に深く関わったのが名古屋の老舗百貨店、丸栄だった。女性は顧客。地元に芸術作品を提供することを望み、親交のあった山田英樹さん(50)=美術担当=に話が持ち込まれた。山田さんは、オークション会社経由で海外の収集家が大作を所有していることを突き止め、買い付けを仲介した。「全国の人が見に来る作品。地元に貢献できたと思う」

 日本の近現代美術に詳しい木本文平氏(碧南市藤井達吉現代美術館長)によると、丸栄は愛陶家で1959~71年に社長を務めた故・川崎音三氏の影響で、美術の専門社員を育て、作家とのつながりを深めた。「人脈を駆使して作品を仕入れ、良心的な価格で売った。だから信用力があった」

 退職まで22年間、丸栄で美術を扱った長谷川久道さん(74)も専門社員の一人だった。「作家を大切にし、共に歩むことを先輩から学んだ」。陶芸家の荒川豊蔵(人間国宝)や加藤唐九郎と信頼関係を築き、個展開催につなげた。「丸栄は地方百貨店だが、美術では全国区の店と肩を並べようとしていた」。最高のおもてなしを実現するために美術の強化は欠かせなかったという。

 高い目利きの力と伝統を誇った丸栄。その百貨店がなぜ、閉店することになったのか。

「白馬の上の女性曲馬師」の魅力とは

 フランス出身の画家バルテュスの「白馬の上の女性曲馬師」の魅力とは――。愛知県美術館の深山孝彰美術課長に読み解いてもらった。

 深山さんは「バルテュスらしさがありながら、他にはない少女の描き方をして珍しい」と語る。

 少女が大人へ成長する時期を「美の象徴」ととらえたバルテュスは、挑発的とも受け取れる姿をいくつも描いている。しかし、この作品は「より自然な、少女本来の初々しい美しさが素直に表れている」という。

 暗い背景の中で白馬と少女が輝きを放つように描かれた作品。同じような構図の絵は、深山さんの知りうる限り見当たらない。「大変価値のある作品だ」という。