【動画】細谷駅前にある「バス停の墓場」=山崎輝史撮影
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 東武伊勢崎線の細谷駅(群馬県太田市)は、路線バスも通らない小さな駅だ。でも駅前には100を超えるバス停の標識が立っている。この不思議な駅前の風景は、実は北関東のクルマ社会の産物だった。

 県東部の交通の要衝、太田駅から1駅。細谷駅周辺は住宅と田畑が混在するのどかな風景が広がる。駅舎もこぢんまりしたもので、電車は上下線とも1時間に1~3本。東京・浅草につながる路線ながら、上りは県内の館林や太田が終点の電車しか止まらない。

 改札口を出て右手に向かうと、人や自転車がすれ違える程度の細い道沿いの柵の向こうに、大量のバス停の標識が並んでいる。記者が数えたところ、130基ほどだっただろうか。都会の駅にも、こんなにバス停はないだろう。標識を支える石にはコケも生え、林立する墓石にも見えてくる。インターネット上には「バス停の墓場」という記述もあった。

 バス停の標識に囲まれた駐輪場を管理する木村正治さんに聞くと、「あんまり気にしたことないよ。困ることもないね」との返事。駅前でまばらな利用客に声を掛けてみたが、「もう慣れた」「言われてみれば変」といった反応だった。

 市交通対策課によると、バス停の標識は、市道の一部を利用して並べられている。平賀英夫課長補佐は「かつて市内で使っていた標識を、一時的に細谷駅前に置いています」と説明する。

 太田は大手自動車メーカー・スバルの「企業城下町」。そんな土地柄もあり、自動車の利用が盛んだ。一方で路線バスの利用状況は低迷が続き、2010年3月末には市内11路線のうち一気に9路線を廃止した。細谷駅前にあるのは、この時行き場を失ったバス停の標識だ。高橋清課長は「当時、柵の中にゴミや壊れた自転車を投げ込まれることも多くて、それを防ぐ『壁』の効果も期待しました」と話す。

 ただ、「駅前に古いバス停が並ぶのは、景観上好ましくない。暗い雰囲気も防犯上良くない」と平賀さん。実は最近、駅前にあったバス停の標識のうち100基ほどを別の場所へ動かした。その中から状態の良い30基を選び、市内で今春新設した無料バス2路線に再利用した。

 平賀さんは「本当は再利用できるのが一番いいんですけど……。いつかは処分しないといけないかも」。具体的な予定は決まっていないが、市内に新たなバス路線の構想はある。いつかバス停の標識がよみがえる日も来るかもしれない。(山崎輝史)

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 〈東武伊勢崎線・細谷駅〉 普通電車で太田駅から約4分、伊勢崎駅から約22分。北関東道太田桐生インターチェンジから車で約25分。1927(昭和2)年開設。2017年度の乗降人数の1日平均は2659人。