ジョーが灰になる最終回、あの人の不在 格差社会の泪橋
毎週水曜午後7時。思い出すと、少しなみだ目になる。
テレビアニメ「あしたのジョー」が始まる時刻だった。小学生だったわたしたち男3人兄弟は、知り合いの長屋の茶の間に上がりこみ、すみっこでテレビを見させてもらった。実家は貧しく、テレビも風呂もエアコンもなかった。
「なみだ橋を逆に渡るんや! ジョーよぉ!」
子供心にそう記憶した、段平の叫びを、悲しく忘れない。
泪(なみだ)橋とは、東京・南千住に実在する地名。近くには山谷の“ドヤ街”がある。主人公の矢吹丈は、孤児の不良だったが、底辺からボクシングの世界でのし上がっていく。
原作漫画は、こう始まる。
「はなやかな東京のかたすみに(略)道ばたのほこりっぽいふきだまりのような(略)そんな街があるのをみなさんはごぞんじだろうか」
連載を始める前、作者のちばてつやさんは、取材で山谷を歩いたという。
「簡易宿泊所に泊まるつもりだった。顔の見えない小さな窓から宿帳を出され、書き込もうとしたら、突然、ぴしゃっと閉めるんだ」
部屋はない、と追い出された。押し問答も無駄だった。
「どこにも泊めてもらえなかった。土地の者じゃないと、手でばれたんだろうね」
この街に、白い手の男はいな…
【無料会員限定】スタンダードコース(月額1,980円)が3カ月間月額100円!詳しくはこちら