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 怪しい医療情報がまとめられたサイト「WELQ(ウェルク)」の問題をきっかけに、正しい医療情報へのニーズは高まっています。ネット時代の医療情報との付き合い方をテーマに取材を続けるBuzzFeed Japan(バズフィードジャパン)の記者・朽木誠一郎さん(32)は3月、「健康を食い物にするメディアたち」を出版しました。「人は、信じたいものを信じてしまう、『疑おう』としないと疑えない。だまされないためにはどうしたらいいのか、少しでもその助けになれば」と話します。さらに「よりよい医療情報の発信に向けて、ネットも既存メディアも連携して取り組んでいきたい」と訴えます。

【ウェルク問題】IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)が運営していた医療・健康情報サイト「ウェルク」。グーグルといった検索エンジンで検索した時に、上位に入りやすくする手法「SEO」を駆使していたが、命に関わる病気についての不正確な情報があるといった指摘を受け、11月にサイトを閉じた。朽木さんは医学部卒業後、ネットメディアの編集長を経験し、ライターとして活躍していた2016年9月に、ウェルクの問題点を指摘する記事を書いた。

――朽木さんは、初期にウェルク問題について記事を書きましたね。

 16年の夏ごろから、ネット上ではウェルクのSEOが強すぎる、と話題になっていました。SEO専門家の辻正浩さんとやりとりしたり、私自身もサイトを見てみたりしました。すると、医療の専門家が書いているかどうかも分からず、ネットに散らばっている情報を集めただけ。何より「この記事の情報の一切について責任を負うものではない」という免責事項があるのをみて、責任あるメディアとはいえない、と感じました。

 ウェルクについて、ネットメディアの視点と、不正確な医療情報を発信する無責任さという問題を、セットで指摘したのは私が初めてでした。その後入社することになるバズフィードジャパンが興味を持ってくれて、大きなうねりになったと思います。

――サイトが閉じられ、その約1年後の昨年12月には、グーグルが医療健康情報の検索について仕組みを変更しました。

 問題になっていたネットメディアの記事が上位から姿を消しましたね。「医療従事者や専門家、医療機関などのより信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすくなる」という大きな変更でした。ネットで自浄作用が働いたともいえると思います。

 でも、ネットとほかのメディアを切り分ける必要ってありませんよね。既存メディアもすでにネットを活用していますし、健康本や新聞に載っている健康食品の広告など、根拠に乏しい情報は既存メディアの中にもあります。それが少しずつ変わっていけばいいなと思います。

――本の中では、怪しい情報の見極め方についても紹介しています。「ラクに」とか「すぐに」、「奇跡」といった言葉には気をつけようと提案しています。

 「疑おう」としないと、疑うのって難しいんですよ。私は中学の頃から陸上をやっていて、ずっと「体脂肪を燃やす」というキャッチコピーのドリンクを飲んでいたんです。

 この本を書くときに、ふと「体脂肪を燃やす、これって…」って気づきました。そして調べてみると、根拠となる論文はマウスの実験だけ。「自分もだまされやすいんだな」って分かりました。

 人はだまされやすいし、信じたいものを信じます。でも、一つ一つの飲み物、食べ物…。全ての情報を疑っていたら大変だし、何にでも難癖をつけるなんて嫌われますよね。私が提案しているのは「命にかかわる重い決断のとき」に、「これは本当のことなのか」と疑ってみることです。

「最も確からしい情報」に近づくしかない

――朽木さんが正しい医療情報を発信するために、気をつけていることは?

 そもそも、デマに対して「正しい」という言葉を使いがちですが、「正しい医療情報」というのは「現時点で最も確からしい医療情報」なんですよね。完全に解明されていること以外は、正しいところにできるだけ近づくことしかできない。

 「医師監修」とついている記事でも、その医師の専門外の分野については不正確なこともあります。

 どの専門家にインタビューするべきかを見極め、論文を読んだり学会に行ったりして、確からしい情報に近づいていくしかない。本当に大変ですが、これをやらないのなら、医療情報を扱う仕事にかかわる資格がないと思っています。

 また、「正しさの押しつけ」にならないように気をつけたいと思っています。人は、正しいかどうかばかりで動きませんよね。好き嫌いといったより人らしい感情で、人は動きます。

 SNSのインスタグラムで好きな芸能人がお薦めしていたら、それが「正しい」かどうか、気にしている人は少ないのでは。それに対して「それは正しくない情報だよ」と言っても、なかなか届きません。でも、健康や医療の情報においては、できるだけ正しい情報を知ってほしいとも思います。

信頼されるメディアへ 地道にコツコツ

――朽木さんが、医療情報について発信するようになったのはなぜでしょうか。

 私は自身が医療記者になるとは思っていませんでした。ライターをやっていた頃は、うかつに手を出せない分野だったので、できるだけふれないようにしていたぐらいです。

 でも、医療デマをたたく、批判する「だけ」なら誰にでもできます。医療情報は、医療関係者と読者に圧倒的な知識の差があって、不利益を生んでしまう構造です。それに対して、すでにこれまでたくさんの記者が「正しい情報を」「分かりやすく」と頑張ってきています。そこに加わりたい、と考えました。

――正しい医療情報がもっと広まるためにはどうすればいいのでしょうか。

 一朝一夕ではなしえない「メディアの信頼」を失うことだけは避けないといけないです。著書でも紹介しましたが、東工大の西田亮介准教授は「ジャーナリズムが機能するためには、<信頼できる>ことは当然として、同時に<信頼できると思われている>ことが必要」と言っていました。

 どうやったら信頼できると思ってもらえるのか。結局は、地道にやっていくしかありません。「できるだけ確かな情報を、コツコツと発信していく」。すでにやっているメディアもたくさんあります。きっと同じ方向を向いているのではないでしょうか。

 連携できるところは連携して、よりよい医療情報のある社会のために取り組んでいければと思います。

      ◇

朽木さんと元五輪陸上選手・為末大さんの対談開催

 ウェルク問題をきっかけに、私たち情報の受け手にも「情報を選び取る力」が求められています。元オリンピック日本代表・為末大さんは「トレーニング情報にも同じ構造がある」と指摘します。

 為末さんと朽木さんに、現状の問題点や情報の正しい見極め方について語ってもらいます。

【日時】2018年6月12日(火) 午後7時~午後9時(午後6時半開場)

【場所】渋谷・ヒカリエ 34階/KDDIオフィス

申し込みはこちら(http://apital-withnews-event.peatix.com別ウインドウで開きます)から。

<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(聞き手・水野梓