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 「高校以来5年ぶり 互角の投球」。今月3日付の朝日新聞は、オリックスの山岡泰輔と巨人の田口麗斗(かずと)の対戦をこう伝えた。2013年夏。広島大会決勝でぶつかった2人は、瀬戸内と広島新庄のエースとして、延長引き分け再試合で投げ抜いた。激闘を支え、2人を鼓舞した捕手たちがいた。

 「ギアが違う」。7月28日の決勝。瀬戸内の山岡の球を受けた捕手、大町太一は、準決勝までとは段違いの球威に驚いていた。

 山岡のスライダーは大町の「目の前で消える」という。前年秋の県大会では受けきれなかった大町。冬、速球に慣れようとマシンの球を捕って特訓した。山岡が防具をつけ、捕手目線で一緒に捕り方を考えたことも。そうして、目では追い切れないが、体で受けるこつをつかんだ。

 「ジェットコースターみたいで楽しいだろ?」

 スコアボードに0が並んだ決勝。中盤、エースはそう言って大町の緊張をほぐした。

 疲れもあり、翌日の練習で大町の捕球は甘くなった。監督の小川成海は見逃さず、再試合での交代を告げた。山岡は「大町とやりたいです」と直訴。大町も頭を下げた。

 7月30日。臨んだ再試合で、山岡の球を受けた大町は、球威が落ち疲れが出ていると感じた。

 八回1死二塁で打席に立った大町に「太一、いけ!」という声が飛んだ。次打者の山岡だった。「こいつのために打ちたい」。5球目、田口の外角へのスライダーがボール2個分内側に入るのが見えた。はじき返した打球は右翼へ。二塁走者を本塁にかえす決勝打だった。

「リズムが良すぎて…」

 山岡が28日に浴びた唯一の安打を打ったのは、広島新庄の捕手柳井(やない)隆宏(りゅうこう)だ。

 大会直前の6月に正捕手に指名され「信じられなかった」。監督の迫田守昭は「送球が3年になって良くなった」と評価していた。

 柳井は冬の間、田口が毎日200球近く投げ込むのを見ていた。「球威も制球力もすごい選手。球を受けられるのがうれしかった」。守備はもちろん打撃でも助けたいと、バットを振り込んだ。九回、山岡の高めのスライダーを右翼に運べたのはその成果だった。

 田口は、山岡とは対照的にこの日、被安打13。直球を何度も外野に運ばれた。延長十三回には三塁打を浴び、広島新庄は満塁策を採った。2死満塁とし、なお硬い表情の田口に柳井が駆け寄った。

 「抑えられるで」。田口の両ほおをつまんで言った。前日に他県の球児がそうしていたのをテレビで見た田口が、「これやってや」と話していたのを思い出したからだ。「ひょっとこ」のような顔にされた田口の緊張はとけ、次打者から三振を奪った。

 「1年の時は自分のことばかり考えていた田口は、3年の夏はおどけてチームの緊張をほぐすような人間に成長していた。その手助けが出来たかな」

 2日後の再試合では、決勝初戦より変化球を多くした。テンポよく投げ、七回まで無失点。「リズムが良すぎて、油断が出た」八回、1点を奪われた。

 「悔しさが人を成長させる。試合後、迫田監督が言ってくれた一言です」

 そう語るのは、初夏まで正捕手だった大野恵介だ。「分析してきたことを柳井に伝えきれていなかった」。瀬戸内の大町の決勝打は、右翼手として出ていた大野の前に飛んだ。返球は本塁に間に合わなかった。「遠い1球でした」

 今春、大町と柳井は、会社員に。大野は東広島市の企業で社会人野球に打ち込み、いまも毎日、白球を追っている。=敬称略(新谷千布美)

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