拡大する写真・図版 アウンサンスーチー氏=7日、ネピドー、貝瀬秋彦撮影

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 イスラム教徒ロヒンギャの問題で、国際社会から批判を浴びたミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問は、7日の朝日新聞との単独インタビューで国際社会に歩み寄る姿勢を示した。ただ、この問題を含め、3年目に入った政権運営は課題が山積している。

問題解決の難しさ、理解求める

 スーチー氏は、1週間前に設置を発表した外国人専門家も含むロヒンギャ問題の独立委員会に、長期的な解決に向けた助言も求める考えを示した。国際社会の介入を拒んできた姿勢を和らげた格好だ。

 スーチー氏は委員会設置の理由について、昨年12月に自ら設置したロヒンギャ問題の諮問機関が、「国際的な調査組織を作るべきだ」と助言したことが、「妥当で、価値のあるものだったから」と説明した。

 ただ、スーチー氏の姿勢が変わった背景には、国際社会の目が「難民帰還」に向かい始めたことがある。「帰還のための環境作り」に積極的に乗り出し、国際社会の批判を和らげる狙いがあるとみられる。

 だが、その裏には国内世論への苦慮も見え隠れする。仏教徒が9割近いミャンマーでは、ロヒンギャに同情する声は少ない。国際機関の調査を無条件に受け入れれば国内から強い反発を招く。あくまでミャンマー政府主導で委員会をつくるという形で、バランスをとった。

 スーチー氏は、難民帰還に反発している一部仏教徒に対して、「平和に暮らすことが必要だと理解してもらう」としつつ、「共存を強制することはできない」とも話し、問題解決の難しさに理解を求めた。

改憲、困難な道のり

 スーチー氏は、3月に発足から2年を迎えた国民民主連盟(NLD)政権の成果を問われ、懸案の経済開発や少数民族武装組織との和平交渉について「満足はしていない」と述べた。特に、和平については国内に約20の武装組織があることを念頭に「ほかの国よりもずっと複雑だ」と述べた。

 民主化を掲げるNLD政権は、軍政下で制定された憲法の改正を目指す。現憲法は国会の4分の1の議席を軍人枠とし、改憲には4分の3超の賛成が必要と定めており、軍が事実上の拒否権を握る。

 スーチー氏は和平交渉で少数民族や軍と合意を形成したうえで、改憲を実現する方針を示しているが、「真に民主的な連邦国家の建設」には改憲と少数民族和平の双方が必要との認識を示し、並行して進めていく考えを示した。

 外交面ではNLD政権になって中国との関係が強まったとの指摘もある。スーチー氏はこれについて、「我々にとって中国は常に良い隣国だ。今も、極めて健康的な関係を築いていると思う」としつつ、中国への過度の傾斜は否定した。

 昨年末、ロヒンギャ問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が逮捕されるなど報道の自由が確保できていない状況については、「何十年と続いてきた法律の仕組みを変えようとしているが、時間と労力が必要だ」と述べるにとどめた。

 民主化運動に関わってから、30年を数えるスーチー氏。「後継者」については口を濁したが、「民主化への闘いに終わりはない。我々の役目を受け継いでくれる人たちを育てるのも私たちの役割だ」と語った。(ネピドー=染田屋竜太、貝瀬秋彦)

     ◇

 〈アウンサンスーチー氏〉 1945年、独立運動の英雄アウンサン将軍の長女として生まれ、英オックスフォード大で学んだ。軍事政権下の88年に国民民主連盟(NLD)を結成し、民主化運動に取り組むが、軍政によって何度も自宅軟禁に。91年にノーベル平和賞受賞。民政移管後の2015年の総選挙でNLDが勝利し、16年に事実上の政権トップである国家顧問に就任した。

アウンサンスーチー氏とミャンマーの歩み

1948年1月 ミャンマー、英国から独立

 62年3月 軍がクーデター。軍の政治支配始まる

 88年3月 当時の首都ヤンゴンで反政府デモ開始、その後全国へ広がる

   9月 軍事政権がデモ弾圧。スーチー氏らが国民民主連盟(NLD)結成

 89年7月 スーチー氏、自宅軟禁に

 90年5月 総選挙でNLDが全議席の8割獲得。軍政は国会開会を拒否

 91年10月 スーチー氏にノーベル平和賞

 95年7月 スーチー氏、自宅軟禁から解放

2000年9月 2回目の自宅軟禁に

 02年5月 2回目の自宅軟禁から解放

 03年5月 3回目の自宅軟禁に

 07年9月 僧侶が中心の反政府デモを軍政が弾圧

 10年11月 民政移管のための総選挙で軍政翼賛政党圧勝。スーチー氏を解放

 12年4月 スーチー氏が下院議員に

 15年11月 総選挙でNLDが政権交代を決める

 16年3月 NLD政権発足

   4月 スーチー氏、国家顧問に就任

   10月 米政府、ミャンマーへの経済制裁をほぼ全面的に解除

 17年8月 治安部隊の掃討作戦を逃れ、イスラム教徒ロヒンギャが難民に

 18年5月 ロヒンギャに対する人権侵害などを独立委員会が調査すると発表

発言要旨

 アウンサンスーチー国家顧問のインタビューの要旨は以下の通り。

 ◆ロヒンギャ問題

 すぐに解決できるものではない。我々は、(帰還する難民らが)安心し、信頼できる環境をつくるために努力しなければならない。法の支配を徹底し、地域開発をすることで安心感を得ることができる。メディアの批判に不満なら、政治の世界にいるべきではない。(国際社会の批判は)彼らはそれがフェアだと思っているだろうが、物事には様々な見方がある。私たちと必ずしも同じではない。

 ◆内政について

 正直に言って、少数民族和平にも経済にも満足はしていない。これからも努力を続けなければいけない。

 少数民族和平問題では多くの違った集団が関わっており、他の国よりもずっと複雑だ。

 我々は憲法を変えると公式に宣言している。

 ◆中国との関係について

 中国とは常に良い隣国だ。今も、極めて健康的な関係を築いていると思う。

 ◆世代交代について

 民主化への闘いに終わりはない。私の世代だけの問題ではない。私の望む、望まないにかかわらず、(世代交代は)進む。役目を受け継いでくれる人たちを育てるのも私たちの役割だ。