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 資産家として知られ、女性との交際遍歴をつづった本「紀州のドン・ファン」を出版した和歌山県田辺市の会社社長、野崎幸助さん(77)が5月、自宅で急死した。遺体から覚醒剤成分が検出され、県警が事故、事件の両面で捜査している。ただその経緯に謎は多く、覚醒剤成分がどのように摂取されたのかなどの実態解明に向けてクリアしなければならない課題が残る。捜査は長期化する様相をみせている。

 「夫の様子がおかしいんです」。5月24日午後10時半ごろ、田辺市消防本部に119番が入った。電話の主は、野崎さんの妻(22)。救急隊が自宅に到着した時には、2階の寝室で手伝いの女性が野崎さんの心臓マッサージをしていた。だが、野崎さんが息を吹き返すことはなかった。

 県警が遺体を解剖したところ、死亡推定時刻は午後9時ごろだった。血液や胃の内容物などから致死量を超える覚醒剤成分を検出。死因も「急性覚醒剤中毒」と判明した。ただ、腕などに注射痕はなく、口から摂取した可能性が高い。捜査関係者によると、尿から覚醒剤成分は検出されず、摂取から死亡まで短時間だったとみられるという。

 自ら口にしたのか、混入物を飲まされたのか……。覚醒剤成分がどのように摂取されたかは、今のところわかっていない。

 50年来の知人の男性は「幸助は日頃から『覚醒剤は嫌』と言っていた。自分で飲んで死ぬなんてありえない」。野崎さんの会社の従業員も「社長は人間ドックに年3、4回行くほど健康に気を使っていた。覚醒剤なんて絶対にしない」と話す。

 県警は家族や会社従業員ら周辺で覚醒剤使用の有無を調査。野崎さんの自宅と会社に加え、6月上旬には東京都内にある妻の別宅と手伝いの女性の自宅を、それぞれ容疑者不詳の殺人容疑で捜索した。

     ◇

 50年来の知人によると、野崎さんは田辺市出身。40年ほど前に消費者金融業を始め、東京都内で官僚に金を貸すなどして成功を収めた。酒類販売や不動産業も手がけ、税務署が高額納税者として公示したこともある。

 野崎さんの名が広く知られるようになったのは2016年。当時交際していた自称モデルの女性が、現金600万円や貴金属など約5400万円相当を盗んだ疑いで逮捕(その後不起訴処分)されたのを契機に、雑誌やテレビに登場。同年末には、多くの女性との交際などをつづった著書「紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男」(講談社)を出版した。「ドン・ファン」は、欧州の伝説上のプレイボーイ。今春発売の続編では、2度の結婚、離婚を経て、2月に50歳以上離れた女性と3度目の結婚をしたことを公表した。

 野崎さんは「イブ」という名のメスのミニチュアダックスフントを溺愛(できあい)していた。「全財産をイブちゃんにやる」と周囲に話すほどだった。14歳前後と高齢だったこの犬が、野崎さんが急逝する18日前の5月6日に急死した。

 8年来の親交があるタレントのデヴィ夫人は「イブちゃんに何かあったら僕は生きる望みがない、が口癖だった」と話す。愛犬の死に野崎さんはひどく落胆。6月11日に和歌山で盛大な「お別れ会」を開きたいと、イベントの内容について相談を受け、連日電話で話し合っていたという。

 知人女性は、野崎さんが亡くなった日の夕方、「イブちゃんのお別れ会に来て下さい」と電話を受けたという。

 焦点の一つが、野崎さんの死の引き金となった覚醒剤成分を含む物質をめぐる捜査だ。県警は自宅から処方薬やサプリメント類を押収し、成分を分析。7日には自宅庭に埋葬された犬を掘り起こした。犬の死因を専門機関に委託して詳しく分析し、野崎さんの死亡と関連がないか調べる。

 ただ、県警幹部によると、覚醒剤の成分は人間や動物の体内に入ると変化するという。「たとえ両者から同じような成分が出たとしても、もとの覚醒剤まで同じことを証明するのは簡単ではない」と慎重な見方を示す。

 「メディアはずいぶん騒いでいるが、我々はまず間接証拠で周りを固めていくしかない。相当時間がかかる」。別の幹部は厳しい表情を崩さない。

野崎幸助さんをめぐる最近の動き

2016年

12月   「紀州のドン・ファン」を出版

2018年

2月   現在の妻と結婚

5月6日 飼い犬が急死

  24日 野崎さんが死亡

6月2日 和歌山県警が東京都新宿区の妻の別宅を家宅捜索

  3日 東京都港区の手伝いの女性の自宅を家宅捜索

  6日 野崎さんの死因を「急性覚醒剤中毒」と発表

  7日 自宅に埋葬された飼い犬を掘り起こし鑑定へ