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 前年の2012年に甲子園を春夏連覇し、人気、実力とも抜きんでていた大阪桐蔭。日川は初戦、古豪の箕島(和歌山)を破り、4度目の夏の甲子園で悲願の初勝利を挙げていたが、「王者」との差は大きいと誰もが思っていた。日川があと一歩に迫った戦いは、満員の大観衆4万7千人を釘づけにした。

 1点を追う九回表。追い込まれた日川は先頭から連打で無死一、二塁の好機をつくる。さらにエンドランでたたみかけるが、打者が空振りし、二塁走者は三塁手前でタッチアウト。流れは止まったかに見えた。

 なお2死二塁。打席に山本悠雅(22)が入った。初球を振ると、打球は二塁手の前に転がった。終わった――。懸命に頭から一塁ベースに突っ込むと、大歓声に包まれた。二塁手が打球の処理に手間どり、送球できなかったのだ。

 二塁走者の佐野拓也(22)は三塁を回りながら二塁手を目の端でとらえた。エラーをすると焦って体の力が一瞬緩むことを経験から確信し、チーム一の俊足で本塁へ。送球が跳ね、捕手がそらす。佐野は同点のホームに手で触れると、跳び上がって喜びを表した。

 大阪桐蔭には、春夏連覇の前年も主力で、現在プロ野球・埼玉西武ライオンズで活躍する森友哉や強打者として注目されていた近田拓矢がいた。

 「『田舎の公立校があたってかわいそう』と見られていた」と主将の広瀬克弥(22)。甲子園は大阪桐蔭目当ての客で満員となり、応援の日川の教員は階段に座らざるをえなかった。

 そんな中、試合の流れを引き寄せたのが日川の先発、背番号11の三枝龍史(22)だった。試合前、ガチガチに緊張していたが、マウンドでは目の前の打者に集中できた。「ベンチ入りできない選手の支えがあったからこそここまで来られた」。そう思うと気力がみなぎってきた。

 持ち味の多彩な変化球と制球力がさえた。決め球のフォークでカウントを整え、的を絞らせない。初回を3人で打ち取った。打線も二回、1死三塁からスリーバントスクイズ(記録は敵失)で先制し、三枝を援護。五回まで大阪桐蔭のスコアボードに0が並んだ。

 「強打のチームに強いのは三枝」と池谷公雄監督(56)。三枝の先発に迷いはなかった。鍵はエース山田基樹(22)にどこでつなぐか。「三枝が良すぎて継投が難しかった」

 継投は六回。三枝が2者連続で四球を与えた場面だった。山田は肩が温まらないまま初球で死球を与え、この回2点を奪われ、逆転を許してしまう。しかし、その後は山田が本来の力を発揮する。194センチの長身から投げ下ろす直球と、体を大きく使った変化球が次々に決まった。

 七回には四球からの連打で1点を失う。なお1死一、二塁で森との初対戦となった。山田は「開き直れた」とスライダーや140キロ超の直球を投げ込み、最後はフォークで空振り三振を奪った。続く近田も空振り三振に打ち取り、最少失点で切り抜けた。日川は八回に適時打で1点差に迫り、九回に同点に追いつく勢いを生み出した。

 延長十回、日川が勝利をつかみかけた瞬間があった。2死一塁。山形勝一(22)が内角の変化球を振り切った打球は左翼ポールの上を越す特大の当たりに。判定はファウルだった。その回が無得点に終わると、その裏、死球から連打を浴び、サヨナラ負けを喫した。

 試合後の整列。相手捕手の森が山形に近づき、握手を求めた。「あのファウル入っとったな。ナイスバッティング」。山形は「誰が見ても本塁打という打球を打ちたかった」と話す。

 公立の日川に特別な選手はいない。練習時間も短く、池谷は「質」を求めてきた。内野の守備練習では連係プレーを徹底し、ミート力を上げるため平面のバットでバドミントンの羽根を打った。本をぱらぱらめくる「速読トレーニング」で動体視力も鍛えた。

 バスターエンドランなども積極的に仕掛けた。「常に『何かやってくる』と思わせる。私立の強豪とは10回やったら9回負ける。残り1回をどう引き寄せるか常に考えていた」

 13年の日川以降、県内で甲子園の土を踏んだ公立はない。「鍛え方や戦い方次第で、普通の子どもたちでも私立の強豪と渡り合えることを示せた。続けてきたことが確信に変わる試合だった」と池谷は話す。その自信を胸に、今年も日川を率いる。

=敬称略

2013年 第95回大会・2回戦

日  川0100000110 3

大阪桐蔭0000021001 4

山梨のベストゲーム トップ10

【1位】○東海大甲府9―8聖光学院(福島)

2004年 第86回3回戦 九回サヨナラ

【2位】○市川2―0我孫子(千葉)

1991年 第73回3回戦

【3位】●日川3―4大阪桐蔭

2013年 第95回2回戦 延長十回サヨナラ

【4位】○東海大甲府8―7関東一(東東京)

1985年 第67回準々決勝

【5位】●東海大甲府6―7宇部商(山口)

1985年 第67回準決勝 九回サヨナラ

【6位】●吉田3―4箕島(和歌山)

1983年 第65回1回戦 延長十三回サヨナラ

【7位】○甲府商14―1境(鳥取)

2007年 第89回1回戦

【8位】●甲府工0―2修徳(東東京)

1993年 第75回2回戦

【9位】○東海大甲府9―3境(鳥取)

1982年 第64回1回戦

【10位】○吉田3―2小松島西(徳島)

1989年 第71回1回戦

(順位はインターネットによる投票結果)

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