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Round20 中国とどうつきあう? 庄司vs.論説委員 後編

 お笑い芸人の庄司智春は、テレビロケで中国の少林寺(福建省泉州市)に行った時のことを思い返す。

 寺の入り口はオートロックで指紋認証。おさい銭はQRコードでスマホ決済する仕組みだった。

 現金、いらないんだ…。

 武道の聖地にまでITが浸透していることに、たまげた。

 対談相手の朝日新聞論説委員・古谷浩一の目には、「AIや携帯アプリなど新しい分野では、中国が日本を凌駕(りょうが)している」と映る。

 鄧小平の「改革開放」から約40年がたち、中国は世界2位の経済大国になった。米国の人気キャラクターをパクったり、偽ブランド品が横行していたり、他国を追いかけているイメージが強かったのに、いつのまにIT大国に?

 古谷は「なにせ人口が多いですから。優秀な人材が集中して開発し、先進的なものができあがる」と指摘する。実際、「テンセント」や「アリババ」など、世界的規模のインターネット企業が急増している。

 ITで暮らしが便利になるのはいいことだ。でも、待った。中国ロケの時、通信アプリ「LINE」を使えなかった記憶があるぞ。

 古谷は庄司に、中国の厳しい情報統制について説明した。「LINEのほか、たとえばグーグルも使えません。中国の検索サイトはあるけど、『天安門事件』など政府批判につながる単語は検索不能です」。公安当局は、膨大なSNSのやりとりにも、すみずみまで目を光らせる。

 ただ、監視一辺倒でもない。行政側がSNSのビッグデータを分析し、市民に便宜を図ることもある。

 これは全くの想像だが、たとえばで言えば、暑い日に「冷やし中華が食べたい」とつぶやいた人が多いとする。するとその情報をすばやく業者側に流し、お店が冷やし中華をたくさん準備する――そんな調子だ。

 便利な一方、個人情報は筒抜けの監視社会。日本で暮らす感覚とは大違いだ、と庄司は思う。自分ならイヤだ。中国の人は、不満を抱かないのだろうか。

 古谷は「今のところは『便利ならいいや』という人が多いようだ」とみる。共産党政権が強引でもスピーディーに政策を遂行するから豊かになった、という実感を、中国の人たちは持っているのだという。

 庄司も、お笑い芸人として巨大な中国マーケットを意識したことが、ないではない。「英語より中国語を勉強して、当たればでかいかも」。夢のような話を、芸人仲間としたこともある。

 ただ、中国語を学ぶほどの熱意を、庄司は持っていない。中国進出しても当たるわけがないという思いだけではない。人々のモラルやマナーが、気になってしまうのだ。

 古谷はうなずきながら、ある「悩み」を告白した。 「4年半の中国生活を終えて日本に帰ってきたのに、行列で体が自然と横入りしちゃうんです。困っているんです」

 なんだそれ! 人口がめちゃくちゃ多い中国だけにどこでも競争が激しくて、横入りが当たり前になってるというわけか。

 ただ、と古谷。「若干、中国の人の側に立って弁解すると、彼ら彼女らが信じるものがない社会で生まれ育った、ということは言えます」

 1966年に始まった文化大革命の時代、中国では理不尽な理由でいきなり捕まえられたり、処刑されたりということがあった。今でも、政府批判をしたことが露見すれば、場合によっては、たとえ私的な場の発言であっても、公安当局に連行されてしまう。「そういう緊張感で生きていると、モラルといってもなかなか育ちにくいのかもしれません」

 一方、古谷は中国の人の長所として、家族や仲間との結びつきがきわめて強いことを挙げた。「家族だ、仲間だと認めた人間は決して裏切らない。いつどんな状況でも守ってくれる。中国人のそういうところ、私は大好きですね」

 中国の経済規模は、成長を続ければ2030年から35年ごろ、米国を抜くという試算があるという。国際社会における中国の影響力は、さらに強大なものになるだろう。

 庄司は考えた。中国が日本を好きになったら、大事にしてくれるようになるのか? 国同士の関係はそんなに甘くない。でも、市民レベルなら歩み寄りができるかもしれない。

 古谷は同意し、「日本は古来、中国から文化や制度を学んできました。先に先進国になった度量を見せて、マナーの悪さにも『ちょっと大人な対応』をしてはどうでしょう」と提案した。

 ロケでいろいろな国を訪ねる庄司。訪問先で「コンニチハ」と日本語で話しかけられるだけで、「あっ、自分に興味を持ってくれてるんだな」とうれしくなる。

 中国からの訪日客も、きっと同じだろう。コミュニケーションする機会があれば、中国語のあいさつ程度は交わして、また日本に来たいなと思ってもらう。そんな小さなことから始めてはどうだろうか。

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