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 野球を簡素化した日本の遊び「三角ベース」をヒントにしたスポーツが、オランダで野球の普及に一役買っている。その名は「BeeBall(ビーボール)」。野球人気の低迷に危機感を覚えたオランダの協会が10年ほど前に考案し、少しずつ定着してきた。競技人口の減少に悩むのは日本球界も同じ。現状打破へのヒントはないか。5月、オランダでBeeBallの現場を訪れた。

 「Go!(走れ!)」

 コーチが声をかけると、ぶかぶかのユニホームを着た少年はきょろきょろと周りを見ながら、一塁へ向かって走り出した。「打ったら一塁へ走る」という基本的なルールもおぼつかない。それでも、「野球っぽい」ことはやっている。

 5月の晴れた土曜日。首都アムステルダムから南へ10キロ足らずの都市アムステルフェーンで、5歳前後の子どもたちが「BeeBall」をしていた。

 始めたばかりの子が多い「ルーキー」というカテゴリーの試合で、1チームの人数は5~6人。ベースは野球より一つ少ない三つで、15メートル間隔で本塁と一塁、二塁が正三角形に結ばれている。本塁を中心に、野球の3分の2にあたる、60度の角度でフェアグラウンドが広がる。

打ちやすい球を投げる

 基本的なルールは野球と同じ。一番の違いは、投手を攻撃側のコーチが務め、「打ちやすい球」を投げることだ。打者は何回空振りしても「三振」がない。何度かやって当たらなければ、専用の台の上に球を置いて、前に飛ぶまで打つ。

 「打てなければおもしろくない。楽しんでもらうのが一番だから」とは、女性コーチのシンシアさん。「ルーキー」ではアウト数は数えず、打順が一回りするまで攻撃は続く。

 日本ではキャッチボールなどの基礎練習から入り、いきなり試合に出場することはまず考えられない。対してオランダは「とりあえず試合をやって、どんなゲームか知ってもらう」のが流儀だ。フィールドも狭いため、守備機会も多く、「打つ」「捕る」「投げる」という野球の楽しみに多く触れられる。

 BeeBallは2009年ごろ、オランダ王立野球・ソフトボール協会が考案した。サッカーなどの人気に押され、競技人口の減少が続いていたころだ。

 協会ではその2年ほど前、野球が広がらないことについて、マーケティング調査を実施した。「『他競技に比べてボールに触れる機会が限られる』『9人いないとできない』『力の差があると守備が終わらず、楽しくない』などの問題点が浮かび上がったのです」と、協会職員のコリネさん(52)。

10歳前後で野球へ移行

 それならばと、協会にいる日本人スタッフが「三角ベース」を紹介し、BeeBallが誕生。今ではほぼすべての野球クラブがBeeBallチームも保有し、小学校低学年までの子がBeeBallを行い、10歳前後で野球へ移行する流れが出来上がっている。

 また、協会は野球を知らない大人でも子どもに教えられるように指導書を作った。年に1度「ウェルカム・フレンド・デイ」を設け、野球やBeeBallをやっている少年少女が、やっていない友達をチームに連れてきて、体験してもらっている。

 協会によると、オランダの野球人口は現在1万1千~1万2千人。増加傾向に転じるほどではないが、毎年2千~2500人がBeeBallを始めてくれるようになり、減少には歯止めがかかったという。

 アムステルフェーンの野球クラブ「DVH」では、4年前は7人だったBeeBallチームが、35人に増えた。コーチを務めるアランさん(41)は「競技を始める子が増えた実感もある。ただ、少しずつ技術的なことも教えるようにしているけど、レベルが上がるにつれてやめる子も出てしまう」。

 アランさんは12歳の時、野球の国際親善試合で日本を訪れた経験がある。「日本はレベルがすごく高く、順番を守るとか、規律もしっかりしていた」と話す一方、同年代の選手を見て、「プレーをする楽しみをもう少し持てばいいのに」と思ったという。

 今夏、第100回を迎える高校野球では次代へ向け「200年構想」を掲げる。子ども向けにティーボール教室を開催するなど普及事業にも力を入れていく方針だ。アランさんは「オランダの『楽しさ』と日本の『厳しさ』『規律』の両立ができればいい。そしたら、どちらの国でも野球が発展できるのではないか」とうなずいた。(山口史朗

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