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 日本銀行が目標とする「物価上昇率2%」の短期達成が難しいことが鮮明になってきた。目標達成時期を経済・物価見通しから削除し、政策委員からは、無理に短期達成を目指さないとする発言も出てきた。異次元緩和開始5年で、副作用への批判もある中、中長期の達成に軸足を移しつつある。

 「実体経済の改善にもかかわらず、物価と賃金の動きは鈍い状態が続いている」

 黒田東彦(はるひこ)総裁は5月末、日銀本店での国際会議で、先進国が物価が上がらない問題に直面していると語った。以前は物価目標達成へ強気を保つ必要性を「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」と、ピーターパンの物語になぞらえて語ったが、今は「弱気」を漏らす。

 黒田総裁は13年に「2年程度で物価上昇率2%を達成する」と異次元緩和を始めた。企業や消費者に景気拡大を「期待」させ、結果として物価が上がるのを狙った。

 緩和効果もあり企業収益は伸びたが、賃上げは鈍く、物価上昇率は4月が0・7%(生鮮食品を除く)。日銀は2%の達成時期を6度も先延ばしし、4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では達成時期の記述を削除した。今の物価上昇率予想(18年度は1・3%、19年度は1・8%)も達成が危ぶまれている。

 今月14、15日の金融政策決定会合では、7月会合での展望リポート見直しに向け、主に物価動向が討議される見通しだ。物価伸び悩みについて日銀幹部は「原因を説明するため新たな分析が必要」と話す。黒田総裁は「根強いデフレマインド」を理由にしてきたが、より明確な説明を求められつつある。

 物価が上がらない中、「2%」の早期達成に向けた追加緩和策も注目される。だが日銀からは追加策を封印するような発言が続いている。

 若田部昌澄(まさずみ)副総裁は5月中旬の国会での質疑で、「現状の政策での(2%)達成というのも可能であるのではないか、という心証を得ている」と述べた。若田部氏は緩和強化を唱える「リフレ派」の学者出身だが、今は追加緩和とは距離を置いているようだ。

 また、桜井真審議委員は5月下旬の講演と会見で、2%の物価目標達成は「なりふり構わず、やみくもにという意味ではない」と語った。「物価が上昇しても、経済の健全な発展が阻害されては本末転倒だ」だとも指摘した。

 異次元緩和では大量の国債を買い、異例の長期金利操作も行っている。追加で打てる手段は限られる。市場では、景気悪化時に金利操作の目標を下げる余地を確保するためにも、「物価が2%に届く前に長期金利の誘導目標を上方へ手直しするのでは」(市場関係者)との観測も出る。

 SMBC日興証券の丸山義正氏は最近の日銀幹部らの発言について「今の政策を続けるしかないという現実路線に傾斜していることの現れだ。日銀執行部の姿勢に沿っている桜井委員の発言も、将来に向けた市場との対話のための『観測気球』的な位置づけだろう」と話す。(湯地正裕)