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起こせジャイキリ サッカー日本代表

◆テレビ東京・高橋弘樹プロデューサー

 突然ですが、クイズです。

 カネなさ過ぎ。予算がないなら頭を使え。ずーっと最下位。イメージキャラはバナナのナナナ。答えは、そう、テレビ東京(テレ東)です。民放キー局の中で、視聴率は安定の最下位。でも、池の水を抜く番組や来日した外国人についていく番組など、話題の番組を連発しています。テレ東の、番組作りへの心構えや戦略は、ワールドカップ(W杯)で強敵に挑むサッカー日本代表にも通じるかも。終電を逃した人の家についていく番組を担当するテレ東制作局の高橋弘樹プロデューサー(36)に、「テレ東的弱者の戦い方」を聞きました。

たかはし・ひろき テレビ東京制作局でプロデューサー・ディレクター・演出を担当。1981年東京生まれ。2005年テレ東入局。主な番組に「吉木りさに怒られたい」「ジョージ・ポットマンの平成史」「家、ついて行ってイイですか?」。著書に『敗者の読書術―圧倒的な力の差をくつがえす発想法』『TVディレクターの演出術』など。

 本当に申し訳ないんですが、僕はサッカー、ほとんど見ないんです。あのサッカーのキラキラしている感じが苦手で。キャプテンは長谷川さん? あ、長谷部さんか。その程度の知識です。ほんと、すみません。

 そもそも、テレ東は今回のW杯の試合中継はしていません。過去のW杯では外国チームの対戦を中継したこともあったけど。普段からサッカー中継をやっているわけじゃない。テレ東は得意なことに集中しろっていう戦略なので。

 負けますから。普段やっていないことを急にやったところで、絶対負けます。王道の戦略で行っても、向こう(競争相手)も王道の戦略だったら、お金や人といったリソースが少ない方が負けるに決まっている。だから、リソースを得意な分野に集中して、一点突破する。じゃないと勝負にならない。全面的な勝負はしない。ニッチを狙う。これがテレ東的な弱者の戦略です。

 業界1位の日テレさんに比べれば、制作費は3分の1から2分の1くらい。5年前くらいは、5分の1くらいだったけど、他局も制作費が削られているから差は縮まっています。でも、テレ東的には、「これ以上カネがなかったらテレビつくれねーよ」っていうギリギリのところでずっとやっているので、差が縮まっている実感はないです。

 だから、豪華なセットは組めないし、何十人もタレントさんを呼べない。「家、ついて行ってイイですか?」は、ロケだけで勝負している番組です。素人さんに出演してもらっているから基本的に出演料はタクシー代を払うくらいで、ギャラはなし。スタジオのセットもない。タレントさんがVTRを見ながらコメントする場面は、街で見つけた人の家をスタジオ代わりにして撮影しています。その分、予算のほとんどを、制作陣の人件費に投入できている。あの番組、実は70人くらいディレクターさんが関わっています。だから、夜中にいきなり家に行くなんていう、普通は不可能に思えるようなことができるんだと思います。

 もちろん自分たちが弱者であることは自覚しています。「はい、きょうも最下位です」「最下位です」「最下位です」って視聴率表を毎日見せられたら、1年もたてばとりあえず猫背になる。そうやって染み込まれる企業文化はあると思います。

 逆に言えば、今より下はないわけです。プレッシャーはゼロ。ダメでも怒られないから。これですね、日テレさんの看板番組なんかだと、視聴率20%行かないと会議で「うーん、数字悪いなー」ってなると思います。そのプレッシャーはすごいと思う。一方、テレ東にはフルスイングして三振することに恐怖感はないんです。大差で負けてるから。だから、企画の選考条件もかなり緩くて、好きにやらせてもらえるわけです。失敗しても怒られないという精神的な優位性は、日本代表にもあるんじゃないかな。直前で監督が変わって、もうダメそうな空気は少なからずあるわけじゃないですか。これはチャンスですよ。

 逆に、テレ東みたいな後発局が、日テレっぽい王道な番組をつくって滑ったときが一番ダサい。視聴者のニーズをとらえて、画面もちゃんとカラフルにして、しっかり視聴率を取りに行こうって、王道な番組をつくるとだいたい滑る。だって、王道の番組だったら、3倍のお金かけている他局に勝てるわけがない。でも、おれにも日テレっぽい番組だってつくれるぞっていうコンプレックスもあって、王道番組もつくりたいという誘惑に負けちゃって、思わず王道っぽい番組をつくっちゃうこともあるんです。でも、結果は大抵悲惨でした。

 日テレはお茶の間で誰もが安心して楽しめるといった番組イメージ。フジは若者のリア充カルチャー。TBSは報道とインテリ系路線。テレ朝も報道、あと社会派路線。じゃテレ東は? サブカルとか非リア寄りカルチャーという感じだと思う。その路線から大きく外れてキラキラした番組をつくっても、やっぱり他局に一日の長があるから勝てない。がんばってつくって滑って、社内で「ダセーやつ」って言われるのは本当にきついです。

 正々堂々と王道をやって負けるんだったら批判されないんじゃないかという考えがある。人間だからそういう甘えって頭をよぎると思うけど、それって自己満足だし、結局負けるんだったら意味がない。ダサいって言われるだけ。

 「家ついて行って」は、もともとゴールデンに行くような番組とは思っていなかったです。深夜でコソコソと好きなことやれればいいなーくらいにしか思っていなかった。周りを意識せずに、自分のやりたいことをふざけてでもやろうっていう気持ちの方が、結果的に話題の番組になる。斜めくらいからシュート打つくらいが決まる気がします。

 テレ東で話題の番組をつくっているプロデューサーって、やっぱり実績ないときから、とんがっていたというか、ちょっと先輩をなめているような人たちだった。それで、そういう先輩をなめているような人が、かわいがってもらえるような企業文化がうっすらある。それって、社内で一番になるより、日テレを倒すぞ、フジを倒すぞっていう考えが先にあるから。社内の下克上は許容される。

 世論ももっと日本代表に下克上待望論みたいな空気を出した方がいいんじゃないかな。本田、香川、岡崎、長友。僕のうっすいサッカー知識でも知っている名前。なんか年功序列っぽい感じはします。日本代表も、チームのバランスとか関係なしに、とにかく対戦相手を倒すぞっていう選手が前面に出てきてほしい。

 テレ東って世間からしたら、「(笑)=かっこ笑い」みたいなポジションなんですけど、日本代表も(笑)みたいなポジションを目指せばいいんじゃないでしょうか。テレ東は他局の方から「テレ東がんばっているよね(笑)」とか、「テレ東もっとがんばってよ(笑)」とか、けっこう言われるけど、これって正直、対戦相手として見られていないってことなんですよね。他局の視聴率分析にテレ東は入っていないって聞いたことがあります。

 でも、この相手にされていない、(笑)ポジションって、相手が油断しているとも言える。相手の油断を見逃さずに、相手が思いつかないような番組をつくってぶつける。そうすると、こっちを見る目が(笑)ではなくなる、ような気がする。だから、対戦国が「相手は日本かー(笑)」みたいな雰囲気になっていたら、チャンスかもしれませんよ。そして、ここ一番大事なんですけど、その一瞬の油断を見逃さない。蜂の一刺しで巨人を倒してほしい。

 日本代表ってベスト4を目指してるんでしたっけ? テレ東も視聴率4位を目指してるんで、少しだけあやかりたいですね。テレ東がかなえられる日は、今世紀中にくるかどうかさえあやしいけど、日本代表には、ぜひ今回頑張って欲しいです。僕たちは、まずはたまーに1週間だけでも4位になれるように、頑張ります。(聞き手・佐々木洋輔)

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 たかはし・ひろき テレビ東京制作局でプロデューサー・ディレクター・演出を担当。1981年東京生まれ。2005年テレ東入局。主な番組に「吉木りさに怒られたい」「ジョージ・ポットマンの平成史」「家、ついて行ってイイですか?」。著書に『敗者の読書術―圧倒的な力の差をくつがえす発想法』『TVディレクターの演出術』など。

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