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 道歌(みちうた)。人生の教訓を込めた五七調の歌のことだ。その代表的78首を紹介する「道歌入門」(幻冬舎)を、奈良県立大客員教授で、神主の岡本彰夫さんがまとめた。岡本さんは、ある道歌のおかげでパニック障害を克服したそうだ。実体験から見えた道歌の効能を探った。

 岡本さんは7年ほど前、通院中だった病院で貧血を起こして倒れたことがある。それからは「また倒れるのでは」という不安が募り、5分間立っているのもつらくなった。診断はパニック障害だった。

 ふと思い浮かんだのが、「火の車 作る大工は なけれども 己(おの)がつくりて 己が乗りゆく」という歌だった。作者も出典もわからない。「私の症状も、ばい菌や内臓の不調によるものではない。火の車と同じで自分が作り出しただけ。絶対、自分で治る」。そう気づいたら気持ちが楽になり、数年で克服できた。同じ悩みを抱える知人らと話すうちに、お互いに気持ちを軽くすることができた。

 岡本さんが道歌を意識したのは高校生のころ。かわいがってくれた祖母が亡くなり、供養のためにお参りする寺で、お坊さんのお説教を何度も聞いた。その説教には落語のように楽しい道歌がちりばめられていた。

 ただ、誰が詠んだかはわからない歌が多く、まとまった書物もなかった。約20年前、1300首余りを収めた「道歌教訓和歌辞典」(東京堂出版)に出会い、気に入った歌を抜き書きし、講演などで紹介するようになった。この辞典を基に、お気に入りの78首の出典などを調べ直してまとめたのが「道歌入門」(本体1100円)だ。

 とくに岡本さんが好きな歌はこんな具合。

 「あら垣も 戸ざしもよしや 駿河なる 清見が関は 三保の松原」(作者不詳)=駿河の清見が関から見る三保の松原の美しさには垣根も戸もいらないように、優れた人の元には自然に人々が集まるものだ。

 「この秋は 雨か嵐か 知らねども けふ(きょう)のつとめに 田草とるなり」(二宮尊徳)=今秋は雨嵐が続くかもしれないが、とにかく手抜きをせずに田の草とりをしよう。日々の積み重ねが大事だ。

 「見む人の ためにはあらで 奥山に おのが誠を 咲く桜かな」(作者不詳)=桜は見る人がなくても咲く。そのように誠実に生きれば、いつか美しい花が咲く。

 「文字にしたものは、誰も安心して見ない。道歌のように、文字のない口伝えの方が覚えるし、人と情報が共有できる」と岡本さん。本の中から好きな道歌をみつけて、口ずさんでみることを勧める。

 ちなみに、小学生の私に亡き父が教えてくれた1首も収録されていた。「いつまでも あると思ふな 親と金 無いと思ふな 運と災難」。晩酌をしながら、つぶやいていた父の姿が思い起こされた。(編集委員・小滝ちひろ)