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北川純子さん(大阪教育大学教授)

 西城秀樹とはどんな歌手だったのか。時代の中での位置づけを考えるために、「現代日本朝日人物事典」(朝日新聞社、1990年版)と「大衆文化事典」(弘文堂、91年版)でどのように取り上げられているのかを調べました。

 すると、野口五郎、郷ひろみの「新御三家」に関する記述は、それぞれ朝日人物事典で1~2件、大衆文化事典でも2件に過ぎませんでした。

 これに対し、彼らと活動時期が重なる天地真理、小柳ルミ子、南沙織の「新三人娘」は、大衆文化事典では、それぞれ4~5件と新御三家の2倍以上でした。アイドル本人の紹介だけでなく、財界人やプロモーター、歌謡曲の歴史といった他の分野との関わりでも登場しています。

 女性アイドルの優位は、桜田淳子、森昌子、山口百恵の「花の中3トリオ」でも続きます。とりわけ山口百恵は朝日人物事典では12件も登場しています。俳優の三浦友和との婚約が、そのほかのエピソードや事件の中にも登場するなど、日本の歴史の一コマにすらなっています。

 こうした隔たりが起きる理由の一つは、アイドルを評価する評論家が、主に年長の男性によって占められていたためだと考えられます。

 彼らが女性アイドルの中に物語を描き、高く評価していたのと裏腹に、男性アイドルについては「女性ファンにキャーキャーさわがれているだけの存在」と、一段低く見ていたのでしょう。

 この評価は果たして正しかったのか。私は新御三家より前の「グループサウンズ」に熱狂した世代ですが、西城秀樹の死をきっかけに、彼の歌を聴き込んでみました。

 最も驚いたのは「傷だらけのローラ」です。冒頭から最後まで12回、「ローラ」が出てきます。最初と最後のローラの旋律が全く同じでビックリしました。ここで気がつきました。彼はローラを12パターン歌い分けていたんです。

 ある時はいたわるように、ある時は励ますように、さらに時をかえて切望するように歌う力で変えていたんです。

 「ブルースカイブルー」も歌の展開の振り幅が非常に豊かでした。語りかけるように歌い始め、途中の『ふり向けば』からは伸びやかに歌い上げる。聴く側はみんなあそこで、青い空を脳裏に描くことができる。ローラと同じ馬飼野康二の巧妙な作曲を生かし切った、西城の歌の力です。

 亡くなって、音楽番組「ザ・ベストテン」の司会をされた黒柳徹子さんが「あんなに歌のうまい人はいない」とおっしゃっていましたが、単に強い声を出すというのではなく、うまさの中の振り幅の多様さが称賛の理由でしょう。

 西城秀樹の評価は低すぎます。これからも長く聴き継がれるべき歌手だと思います。(聞き手 編集委員・駒野剛)

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 国立音楽大学卒。2012年から現職。専門は音楽社会学。著書に「現代日本社会における音楽」などがある。