【動画】金剛家所蔵の貴重な能面の数々=向井大輔撮影
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時紀行

 「能面のような顔」というと、無表情の意味で使われることが多い。だが、能面の世界に一歩足を踏み入れると、そんな使い方は金輪際しないと誓いたくなるぐらいに、その表情は豊かだった。

 能舞台と楽屋の間にある「鏡の間」。そこは「現実」と「異界」をつなぐ特別な空間だ。

 能楽のシテ方(主役を務める職掌)5流のうち唯一、京都を拠点とする金剛流の金剛能楽堂(京都市上京区)で、鏡の間を見た。

 いすに腰掛けた二十六世宗家、金剛永謹(ひさのり)さん(66)は付き添いの能楽師から能面を手渡されると、面の顔を拝むように捧げ持ち、裏返してゆっくりと顔につける。面に開けられた両目のわずかな穴から、大きな三面鏡に映る自分と静かに向き合い、舞台へと歩いていく。その間、およそ5分。600年を超える能の歴史と精神が永謹さんの心身に凝縮されていく。

 能面はその核心だ。大きく60種ほどある能面によって、能楽師は鬼神になり、老婆になり、武将の亡霊にもなる。「外している時はただの物体だが、つけた瞬間から体と一体化する」。金剛家は約200点の能面を有し、「面(おもて)金剛」と呼ばれるほど名品が多い。

 とりわけ大事に扱われる能面がある。「雪の小面(こおもて)」。静かなほほ笑みをたたえた若い女性の面だ。室町時代の龍右衛門(たつえもん)作とされ、豊臣秀吉(1537~98)が「雪」「月」「花」と名付けて愛蔵したと伝えられる小面のうちの1面。数奇な運命をたどり、金剛家とめぐりあった。

     ◇

 豊臣秀吉は晩年、自らが主役の演目をつくるほど能に入れ込んだ。「雪」「月」「花」の小面(こおもて)のうち、「月」は徳川家康に贈られた後、江戸城炎上で焼失したと伝えられる。「花」は現在、三井記念美術館(東京都)が所蔵する。

 そして「雪」。秀吉は能の師であった金春(こんぱる)家に授けたとされる。

 江戸時代を経て明治になり、幕…

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