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 サッカーW杯の本大会が14日、ロシアで開幕しました。日本にとっては、19日の初戦コロンビア戦のメンバーがこれからの焦点になります。代表選出でも賛否が分かれていた本田圭佑の起用はどうなるでしょうか。私は本田の影響力に注目して考えています。

 4年前のW杯ブラジル大会の開幕戦はコートジボワールに1―2の逆転負けを喫しました。日本の先取点を奪ったのは本田でした。

 大喜びした本田が左手の指を1本立て、日本ベンチの方へ走っていったシーンを思い出せる人は多いと思います。指導陣も控え選手も飛び出してきて、チームが一つの塊になって喜びました。

 当時の日本代表は期待が大きかったので、見ている人たちも「勝てる」という気持ちを膨らませたことでしょう。それだけに、大きなショックとなる逆転負けの試合でした。

 コートジボワール戦の翌日、本田は当時のスタッフの1人に、自分のゴール後のパフォーマンスへの反省を口にしたそうです。

 「あれは喜び過ぎだった。日本はリードしてからも、挑戦者のままでいなければならなかった。次に得点したら、ゴールネットからボールを拾ってキックオフマークに置いてくる。そうやって、まだ戦うぞという気持ちをチームに広げたい。見ててください」

 4年前のW杯ブラジル大会ではこの後、本田は得点を挙げることができませんでした。しかしこの経験は、その後の本田に影響を与えていると思います。人の心が大きく動く瞬間に、どう振る舞ったら、どういう反応が起きるのか。そういうことを常に考えて、この4年間を過ごしてきたはずです。ロシア大会で本田がどんな振る舞いをするのか。注目したいと思います。

 W杯ブラジル大会の頃から、本田は自らの言動で、チームの空気や、試合の流れに、どうやって影響を与えるかを考えていました。

 きっかけは各大陸王者が集まってブラジルで開かれた2013年のコンフェデレーションズカップです。

 日本出国前に全選手が顔をそろえた記者会見で本田は、コンフェデレーションズカップやW杯で優勝するために必要なことを聞かれ、何人かの選手を名指しして、それぞれの課題を指摘しました。

 純粋にチームを強くしたいという気持ちからだったと思いますが、本田の言動を巡って、W杯優勝という目標設定が適切かどうか、他の選手の課題を一選手が公の場で指摘することの是非など、賛否両論の議論が巻き起こりました。

 日本代表のザッケローニ監督(当時)は、その場は軽く受け流していました。しかし3連敗に終わったコンフェデレーションズカップの後、本田にこう求めたそうです。「W杯優勝を目指すのはいいことだ。しかし口に出すことでチームの足を引っ張っている。メディアの前で言うのは止めて欲しい」

 本田はそれから、W杯優勝を目標として語ることを「封印」しました。W杯ブラジル大会の頃は、報道陣に問いかけられても答えませんでした。

 ところが最近のイベントで本田は「優勝を目指す」と発言していました。どういう心境の変化なのか、気になるところです。

 選手も人間として成長します。私が本田の存在を知ったのは彼が中学3年の時でした。友人がガンバ大阪で中学生の指導をしていて、ユースには昇格させられないが、友人としては高く評価しているという話でした。取材を始めたのは高校1年。当時は、将来は日本代表になると思えるようなプレーぶりではありませんでしたが、人として引きつける何かがあり、無名の高校生のために取材を続けることになりました。

 家族や指導者の話を聞くと、本田は中学生の頃には、将来の計画を言葉にする力を身につけていました。計画しないことには実現しないというのが父親の考えでした。カヌーで東京五輪に出た大叔父からは、「練習ノート」を毎日書いて体調や練習内容を記録するよう教わっていました。

 本田の選手人生で一貫しているのは、言葉と思考を未来を切り開く武器にしてきたことです。

 西野朗監督が本田に期待をかけるならば、起用の意図を明確にして、本田自身にも準備と計画の時間を与えるべきだと私は思います。先発なのか。途中投入なのか。どういう役割を求めているのか。特別扱いになるかもしれませんが、他の選手より先に知らせておくことも一案です。必要とされれば、チームの勝利のために、自分の影響力を駆使する。本田とは、そういう選手です。(忠鉢信一