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 人々の記憶に残るのは、甲子園での一戦や広島大会決勝ばかりではない。昨夏の広島大会3回戦、尾道商と国際学院のドラマは延長十回から始まった。

 試合は気温が30度を超えた正午過ぎに始まった。昨年7月15日。国際学院のエース、土取(つちとり)大起(たいき)は、春の県大会で1点差で敗れた尾道商との再戦に燃えていた。

 しかし一回裏、失策が絡み、先制点を奪われる。二回裏も安打が続き1失点。

 「何やっとんや、いつもと違うぞ」。監督の長延(ながのぶ)公平の一言で、力みに気づいた土取は調子を取り戻し、尾道商打線を翻弄(ほんろう)。三回から七回まで散発2安打とし、八回表には自ら左前安打で出塁、連打で生還し、同点とした。

 両者譲らず延長戦へ。十回表、国際学院の打順は土取からだった。狙ったのは前の打席で安打した直球。3球目、同じコースだ。振り抜くと打球は中堅手を越え、柵の向こうへ吸い込まれた。「よっしゃあ!」

 ダイヤモンドを回った土取はすぐブルペンへ。カキン!と良い音がした方を見ると次打者の主将、石田海十(かいと)も本塁打。キャッチボールを始めると、ベンチから「また打った!」と大歓声。「3連続だ」

 尾道商の選手はぼうぜんとした。だが、主将の平川翔(かける)は冷静だった。「ここからだ。奇跡を起こそう」

 十回裏、尾道商は代打の久保義一(よしひと)を打席に送った。土取は変化球の後に直球が多いと聞いていた久保は、直球を狙い強打。三遊間を破った。

 勢いに乗った尾道商は、次打者も内野安打で出塁し無死一、二塁。そこから沼田光輝(ひかる)が走者2人をかえす3点本塁打を放った。

 国際学院の土取は、尾道商の応援歌が耳元で聞こえる気がした。さらに連打され1死満塁、尾道商の打者は平川。2球目、捕手が塁から離れている二塁走者に気づき牽制(けんせい)球を送って2死に。カウント2―2と平川を追い込み、内角低めの直球で勝負をかけた。甘い球ではなかった。だが、平川は球の真ん中を捉え、三塁を強襲。決勝打となった。

 土取は一瞬、何が起きたかわからなかった。135球目。打たれたとわかった瞬間、涙がこみあげ止まらなくなった。

 翌日も放心状態。数日後、気分を変えようとツイッターを始めた。すぐにメッセージが届いた。「いい試合だったよな」。平川だった。

 尾道商は準々決勝で広陵に敗北していた。平川は野球をやめて就職するつもりだった。だが、夏の大会を経て「ずっと野球に関わりたい」と、大学進学を考え始めていた。

 ツイッターで親交を深めた土取と平川は、同じ広島文化学園大学へ進んだ。今は野球での全国大会出場と教員免許取得が共通の目標だ。

 昨夏の一戦のことをよく話す。「ああしておけば勝てた」と土取が言えば「それはどうかな」と平川。共に戦った1学年下の後輩はこれから最後の夏に臨む。2人はそれぞれ、母校を応援するつもりだ。=敬称略(新谷千布美)

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