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 妊婦さんが妊娠中に最もかかりやすい感染症は何かご存じですか?

 実は尿路感染症なのです。尿路感染症とは、尿の作られる腎臓から尿道口までの尿の通り道におこった細菌感染症を言います。

 自覚症状がないものの、尿の中に細菌が存在している状態である「無症候性細菌尿」まで含めると、妊婦の10~50人に1人がかかっていると言われています。

 この無症候性細菌尿を放っておくと本当の感染症となり、急性膀胱炎(ぼうこうえん)や急性腎盂腎炎(じんうじんえん)になってしまいます。妊婦健診でも毎回尿検査を実施していますが、その検査では細菌尿かどうかまでは調べられていないのが現状です。

 急性膀胱炎は、尿回数が多くなる▽尿が残っている感じがしてすっきりしない▽排尿時や排尿後にしみるような痛みを感じる▽尿が濁ったり血が混じる▽普段とは違う匂いがしたりする――といった症状がみられます。

 急性腎盂腎炎は、感染が膀胱だけでなくその上流にある腎臓にまで及んでしまった状態を指します。急性膀胱炎と同じような症状のほか、高い熱が出たり悪寒がしたりします。特徴的なのは腰や背中の痛みで、背中をたたくと痛みを感じるといった症状もみられるようになります。

 妊婦以外ではたとえ「無症候性細菌尿」とわかっても、症状が無ければ「細菌が悪さをせずに存在しているだけ」なので、治療対象にはなりません。これに対し、妊婦の場合は抗菌薬を用いた治療が望ましいとされています。妊婦の無症候性細菌尿を治療せずにおくと、急性腎盂腎炎へと進行する可能性があるからです。そのリスクは妊娠していない女性の20~30倍高いと言われています。

 急性腎盂腎炎を発症すると、細菌が血液内にも移行して全身にめぐり、敗血症を起こすこともまれにあります。そうなると、母体と胎児がともに命の危険にさらされる場合があります。また、急性腎盂腎炎は早産のリスクも高くなることも分かっています。

 さて、このような尿路感染症の感染はどのようにして起こるのでしょう。

 一般的には上行性感染と言って、尿道口から細菌が侵入し、尿路をさかのぼって感染を起こす場合がほとんどです。原因菌としては腸の常在菌である大腸菌が圧倒的に多いのですが、これは尿道口と肛門(こうもん)の位置が近いからというのはおわかりでしょう。

 もともと女性は、男性に比べて圧倒的に尿路感染症を起こしやすいことが知られています。これは女性の方が尿道口と肛門の位置が近いからだけでなく、尿道口から膀胱までの距離も短い(女性が3~4センチ、男性が16~18センチ)からです。

 その女性が妊娠すると、さらに尿路感染症にかかりやすくなります。それは、妊娠によるホルモン環境の変化に加え、大きくなった子宮で尿路が圧迫されるからです。

 尿路感染症の主な治療は抗菌薬の投与です。

 無症候性細菌尿や急性膀胱炎では抗菌薬の内服で治療可能ですが、急性腎盂腎炎になってしまった場合には、入院して抗菌薬の点滴治療を受けるのが一般的です。点滴の方が、血管内に直接薬剤を注入するので、全身に速やかに効果が行き渡り、より重症な場合の治療に優れているからです。

 原因となる細菌が判明すれば、それに効果のある抗菌薬で、なおかつ胎児への影響も少ない薬剤を選択します。

 尿路感染症は急性腎盂腎炎に至る前に治療することが大切です。妊娠中に「発熱・腰痛・尿の異常」を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科産科婦人科学講座医員 小玉都萌(ともえ)、弘前大学医学部付属病院周産母子センター准教授 田中幹二)