拡大する写真・図版 南米コロンビアの首都ボゴタで17日、大統領選決選投票で勝利し、支持者らに手を振るイバン・ドゥケ氏(中央)=ロイター

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 南米コロンビアで17日、大統領選の決選投票があり、左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)との和平合意の見直しを訴えるイバン・ドゥケ前上院議員(41)が当選した。内戦終結で2016年にノーベル平和賞を受賞したサントス大統領が進めた和平の流れに影響が出るのは確実だ。

 「和平合意を粉々にはしない。だが、正義が行き渡る国を求める、みなさんの意見を前に進める」。勝利宣言でドゥケ氏は、改めて和平合意の見直しを約束した。選挙戦では、「FARCを率いた幹部たちは、犯した残忍な行為の罪を償っていない」とし、「不正義だ」と訴えてきた。

 FARCは武装解除の際、戦闘員の身の安全などを保証する恩赦を要求し、認められた。和平合意で合法政党になり、26年までは国会で10議席が確保される。

 だが、半世紀にわたる内戦の死者・行方不明者は約25万人。家族や友人がFARCに誘拐や殺害された人も少なくなく、人々の反感がドゥケ氏を勝利に導いたとも言える。3月の国会議員選でFARCは議席の上積みを目指して74人を擁立したが、1人も当選できなかった。大統領選でも元司令官が立候補を表明したが、遊説先で石や卵を投げられ、出馬を取りやめた。

 ドゥケ氏は「本当の社会正義が実現される国にする」と訴えている。誘拐や殺人などに関与したFARC幹部の収監のほか、参政権の停止に踏み込む可能性も指摘されている。

 ドゥケ氏の勝利を受け、FARCは「この国に求められているのは全面的な平和、和解だ。良識の発揮が求められている」などとする声明を発表し、和平合意を尊重するように求めた。

 ドゥケ氏の得票率は53・98%。合意尊重を主張したグスタボ・ペトロ前ボゴタ市長(58)は41・81%だった。投票率は53・04%。就任は8月7日で任期は4年。

ゲリラ側、合意尊重求める

 半世紀にわたる内戦を終結させた左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)と政府との2016年の和平合意後、初めて行われたコロンビア大統領選。元FARCのメンバーは、合意の行方を心配しながら一票を投じた。国内では他のゲリラなどの活動が続いており、当選したイバン・ドゥケ前上院議員には治安の回復も期待されている。

 17日朝、ボゴタ市内の投票所。元FARC幹部のサンドラ・ラミレスさん(54)は、緊張した面持ちで一票を投じた。「市民としての権利と義務を果たした気持ちでいっぱいです」。和平合意でFARCに議席が与えられたことで現在は上院議員を務めるが、2年前まで35年間、ジャングルを拠点にゲリラとして活動した。

 事前の世論調査ではすでに、合意見直しを訴えるドゥケ氏の優勢が伝えられていた。「極右が権力を握ることで、私たちが真剣に約束した合意がどうなるか心配だが、おびえてはいない」と話した。「たとえ合意が見直されても、めくったページを戻すことはない」と語り、二度と武器は取らないと強調した。

 ドゥケ氏の勝利を受け、FARCはこの日、「この国に求められているのは全面的な平和、和解だ。良識の発揮が求められている」などとする声明を発表し、和平合意を尊重するように求めた。

内戦後にも抗争、避難民も

 内戦は終結したコロンビアだが、同国で活動するNGO「ノルウェー難民委員会」のクリスチャン・ビスネス代表は「和平合意後も国内避難民が生まれ続けている」と指摘する。

 FARCが武装解除したことで、その支配地域に「力の空白」が生まれた。国軍が制圧する前に、他の左翼ゲリラや右派民兵組織、麻薬密売組織などが勢力を伸ばしたという。

 コロンビア北部や南部など周縁では、組織同士の抗争も激しくなっており、住民は暴力から逃れるため、家や土地を捨て国内の別の都市へ避難している。昨年だけで14万人に達し、今年はさらに増えそうだという。ビスネス氏は「法の支配が及んでおらず、平和と呼ぶにはほど遠い状況だ」と話す。

 当選したドゥケ氏は、和平合意の見直しと同時に、治安回復のために警察や軍の強化も約束した。活動を続ける左翼ゲリラや麻薬密売組織などへの軍事的圧力を強める可能性もある。ビスネス氏は「攻撃は、さらに避難民を生む恐れもある。交渉で解決する道を選んでほしい」と語った。

当選したドゥケ氏の横顔

 「この選挙で敗れた市民などいない。すべてのコロンビア人の大統領になる」。当選を決め、最初に呼びかけたのは、国民融和だった。

 左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)と結ばれた和平合意は世論を二分している。自身も見直しの立場から批判を続けた。大統領選を通じ、コロンビア社会の分断は深まった。融和は簡単ではない。

 後ろ盾は、ウリベ前大統領。大統領時代、左翼ゲリラへの激しい軍事攻撃を展開し、弱体化させた人物だ。その跡を継ぐように軍や警察の強化を訴える。

 弁護士資格を取得し、若くしてアンデス開発公社や米州開発銀行など公的機関の相談役としてキャリアを積んだエリートだ。2014年、ウリベ氏の党から出馬し、上院議員に当選。経済問題の専門家であると同時に、和平合意の批判者として知られるようになった。大統領選で和平合意の見直しとともに訴えたのは経済改革だった。

 ロック好きで、ギターを弾くのが趣味。妻マリアフリアナ・ルイスさんとの間に、3人の子どもがいる。(ボゴタ=岡田玄)