「焼肉ドラゴン」映画に エネルギッシュな在日一家

保科龍朗
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 高度経済成長の日が当たらない底流に埋もれた在日韓国人は、どう生きたのか――。22日から公開される「焼肉(やきにく)ドラゴン」は、万博で沸く大阪を舞台に描かれる在日一家のエネルギッシュな悲喜劇に、そんなテーマが託されている。日韓で上演され、観客を熱狂させた戯曲の映画化で、作者である在日の劇作家、鄭義信(チョンウィシン)が、みずから初監督した。

 時は1969年。大阪・伊丹空港の近くで国有地を不法占拠している在日の集落に、「ドラゴン」と呼ばれる焼き肉屋があった。太平洋戦争で片腕を失った店主と妻は在日1世。3人の娘と長男がいて、貧しくても歯を食いしばって生きている。しかし、立ち退きを迫られ、一家は北朝鮮や韓国へと離れ離れに。それでも「明日はきっと、ええ日になる」と信じている。

 原作の同名戯曲は2008年、東京の新国立劇場とソウルの「芸術の殿堂」の合同公演のために、韓国側から直々に指名されて書かれた。

 鄭はその際、「棄民として忘れ去られてゆく在日の歴史や文化を記録しておこう」と思うとともに、「逆『三丁目の夕日』の世界を描こう」ともくろんだという。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)がかき立てた甘美なノスタルジーを「キムチ味」に変えようとしたのだ。「僕が暮らしていた世界は、おしなべて貧しく、一生懸命に泣いたり、笑ったり、わめいたりする人たちがいたことを書き残しておきたかったんです」

 実は、兵庫県姫路市の自身の生家も国有地に建っていて、後に立ち退くことになった実体験も採り入れている。「くず鉄屋をやっていた父は、『権利書はないけど、この土地は醬油(しょうゆ)屋の佐藤さんから買った』と言い張ってました。そのセリフは、劇中でそのまま使っています」

 韓国では初演のとき、興奮のあまり引きつけを起こす観客までいたという伝説の戯曲は、再演を重ねるうちに「物語が、ひとり歩きし始めた」という。「日本の中でも特殊な境遇の家族を描いたつもりだったのが、故郷の喪失や、移民・難民の悲劇のような普遍的なとらえ方をされるようになった。特に、旧来の家族制度が崩壊しつつある韓国では、リアルタイムの現実と重なるドラマとして、若い世代が見に来てくれました」

 映画で3姉妹を演じるのは、真木よう子井上真央、桜庭ななみ。戯曲のファンだった大泉洋が、ちゃめっけを封印して、血の気の多い在日の青年を熱演している。(保科龍朗)