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 4月5日の阪神戦が終わった後、楠本泰史が残した言葉には強気がにじんでいた。

 「(打席の)内容は悪くなかった。手も足も出なかったわけじゃない」

 ドラフト8位ルーキーは、オープン戦の奮闘が認められて開幕1軍メンバーに名を連ねた。プロ初スタメンで、相手の先発はメッセンジャー。3打数無安打と抑え込まれたが、明日への光明もかすかに見えたはずだった。

 その後もスタメンや代打でチャンスは与えられたが、待望の「H」ランプがともらない。17打席11打数0安打。打率0割のまま、4月15日に1軍登録を抹消された。

 楠本が振り返る。

 「打てると思ったボールにバットが当たらない。打てると思ったボールがファウルになる。自分の実力がまだまだ足りないということを、試合の中で感じるようになりました。ご飯もあまり食べられなくなって、体重が5キロ落ちた。目に見えないところで神経を使っていたんだと思います。この緊張感の中でもやっていける体の強さと心の余裕がないとプレーし続けられない。開幕からの2週間で、そんなことを感じました」

 2軍生活は1カ月半にも及んだ。打撃、守備、走塁、すべての面においてスキルアップを目指し、各部門のコーチとの対話を重ねた。トレーナーからは「体重が戻らない限り、思ったようなプレーはできない」と言われ、食への意識も改めた。

 再昇格の声がかかったのは5月31日のことだ。

 6月3日のソフトバンク戦でスタメンに起用されると、その第2打席で武田翔太のカーブを捉え、右前に運ぶ。さらに第5打席には初の長打となる二塁打も記録した。

 理想の打者像は「西武の秋山(翔吾)さん。単打も長打も打てて、率も残せる」。楠本は1軍の舞台に帰ってきたからこそ、セ・パ交流戦という希少な西武との対戦機会に立ち会うことができた。

 「食い入るように見ていました。自分の目で見て『こういう選手になりたい』という思いがより強くなった」

 西武とのカードは第2戦が雨天中止となったため、5日と7日の2試合がひとまず開催された。1試合目の秋山は5打数無安打に終わったが、2日後の試合では5打数3安打の猛打賞。楠本は言う。

 「1試合目はタイミングが合っていなくて、決していい内容ではなかったと思います。でも次の試合ではガラッとバッティングが変わったように見えました。この修正能力の高さ。状態が悪くても結果を出せるからプロでも活躍できるんだなと感じました。うまくいかない時にどう工夫するかを、自分でも追い求めていかなければいけない」

 故障者が相次いだベイスターズでは、若手の出場機会が増えている。楠本は12、13日のロッテ戦、15日のオリックス戦で3番打者に抜擢(ばってき)された。「新人らしく思いきって」と自らに言い聞かせ、コンスタントに安打を放った。

 打率は依然として1割台だ。それでも濃密な日々に22歳の成長は促される。目の前に延びるプロの道を、一歩ずつ着実に歩み始めた。(横浜DeNAベイスターズ公認ライター・日比野恭三)

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