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 劣勢が予想された1次リーグ初戦でコロンビアを破り、日本代表の評判が急上昇しています。しかし、日本代表が以前より強くなったと評価するのは気が早すぎます。日本の戦いぶりは良くなっていますが、0―2で敗れた西野監督初陣のガーナ戦をはじめとした親善試合と比べての話です。W杯の初戦をものにしたという結果と、試合内容の評価を、同じ物差しでは測れません。

 なにしろ相手が10人になってから、残り時間が84分もあったという有利な条件があっての勝負でした。コロンビアの自業自得とも言えますが、PKと退場のダブルパンチは極めて重いハンディです。あまりに重い罰なので、2年前のルール改正で「三重罰の禁止」が導入され、ハンドによる得点機会の阻止などの悪質な場合のほかは、PKになった場合は退場が警告に減免されています。

 1点を先行した日本は、プレスで相手をサイドへ追い込み、中央ではタイトな守備陣形を維持しました。加えて、相手より一人多くなったので、余った一人がマークを気にせずボールを奪いにいったり、相手に入ってきてもらいたくない陣形の隙間を埋めたりすることができました。それでも失点したのですから、守備がよかったといっても、及第点というところです。

 日本の決勝点はCKから。流れの中での攻撃で、一人多い有利さを生かしたわけではありません。選手交代も動きが落ちた選手の入れ替え。戦いを有利にする特別な工夫があったようには見えませんでした。

 西野監督は、位置取りやプレッシングに関して、現代サッカーの基本を徹底しているように見えます。基本なので、準備の時間が少ないなかでも選手たちは実行できています。就任から1カ月ですから、妥当な戦略と言えます。

 ハリルホジッチ前監督は約3年前に就任し、チームの弱点を強化したり、自分のサッカー哲学の実現を試みたりする時間がありました。両監督を比べるときには、プロジェクトに与えられた時間的な条件がまったく違う、ということを理解しておくべきでしょう。

 ハリルホジッチ前監督の解任や西野監督の就任には批判がありましたが、解任を支持し、新監督を推していた人たちもいます。コロンビア戦をきっかけに、「勝てば官軍」とばかりに、監督交代を正当化し過ぎれば、新たな反発も起こりそうです。

 約3カ月前まで日本サッカー協会副会長だった岡田武史氏は、NHKの解説者としてコロンビア戦の後、西野監督へ向けてこうコメントしました。「サッカー界みんながかけたリスクにチャレンジしてくれて、そして結果を出してくれた」

 ハリルホジッチ前監督の解任に同意しない意見は世論に根強くあり、西野監督が「みんながかけたリスク」に「チャレンジ」したという言い方に、私は違う、と言いたい人は少なくないでしょう。

 日本サッカー協会の川淵三郎相談役は、コロンビア戦前の朝、自身の公式ツイッターで「ハリルホジッチ監督の時、ほとんど勝てる可能性がないので、オランダ、イタリア、アメリカのサッカーファンのことを考えれば出場出来るだけラッキーと考えてW杯を楽しんでくださいと講演などで話していた。西野監督に変わった今は何か起きるかも知れないというドキドキ感が今朝になって自分に出てきた」と書き込みました。これに反発するツイートが広がりました。

 一方で不思議なのは、PKに結びついたプレーへの評価です。日本はボールを奪うとすぐに香川真司が相手DFの背後を狙い、大迫勇也が追いついて決定機にしました。

 ハリルホジッチ前監督は常々、縦に速い攻撃を求めていました。このプレーが、ハリルホジッチ前監督の遺産だ、という意見は一部でしか見当たりません。

 解任の経緯を巡ってハリルホジッチ前監督に同情したり、日本サッカー協会幹部の言動を批判する人は多くても、ハリルホジッチ前監督が目指したサッカーの具体像を理解して、「あのサッカーが見たい」と支持している人が、多いわけではないのかもしれません。(忠鉢信一