野球界「けが軽視の土壌」どう改革 持続的発展へ模索

山口史朗
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 春夏の甲子園大会を主催する3者(日本高校野球連盟、朝日、毎日両新聞社)は5月16日、次代へ向けた「高校野球200年構想」を発表した。野球未経験者にアプローチする「普及」、指導者や選手の技術向上を目指す「育成」のほか「振興」「けが予防」「基盤づくり」の5大目標を掲げる。今春、全国の加盟校への実態調査に併せ、朝日新聞は「高校野球が持続的に発展していくために最も必要なもの」をアンケートした。「普及」「振興」への回答が計7割を超える中、「けが予防」は5大目標の中で、最も少ない3・7%だった。

 「日本には、多少のけがを抱えながらプレーすることが、選手として『勲章』のような空気がある」。古島弘三・慶友整形外科病院(群馬県館林市)スポーツ医学センター長(47)は野球界にはびこるけが軽視の土壌を憂える。

 同病院を訪れる野球に関わる新規の患者は年間約800人。約4分の3が高校生以下だ。6月、右ひじの靱帯(じんたい)を再建する手術を受けた関東地方の高3投手は、小6のとき、ひじを剝離(はくり)骨折したという。「ほかに投手がおらず、痛いと言えなかった」。骨がはがれたまま過ごし、この春に激痛が走ったという。

 古島さんは今年1月、大リーガーが輩出するドミニカ共和国の少年野球を視察した。「子どもたちをけがさせた指導者はクビになる。日本もそういう意識が必要」としたうえで、こう警告する。「高校生で痛める選手のほとんどは、小・中学時代にけがの経験がある。繰り返すんです。子どもの頃に痛くなるまでやらせてはいけない」

 日本高野連は1990年代から球児の障害予防に取り組み、甲子園大会で投手の肩・ひじ検診などを実施してきた。延長は無制限→18回→15回と短縮され、今春から12回まで同点の場合、早期決着を図るタイブレーク制も導入された。とはいえ、過密日程や投球数過多などの課題は残る。

 前述のアンケートは、次の100年に向けた具体的取り組みや意見などを記す自由記述欄も設けた=図参照。聖愛のように個別に普及活動をする学校は各地に点在する。野球を通じた教育的価値を説く声も多い。一方、「負ければ終わり」のトーナメント制や部活動のあり方への提言も寄せられた。

 「レベルに応じたリーグ戦の導入」を訴えたのは小杉(富山)の川原祐策監督(32)。「甲子園優勝を狙う強豪と普通の公立校では、はっきり言ってレベルが違う。そんな相手にコールド負けするより、同程度の相手との公式戦を重ねて切磋琢磨(せっさたくま)する方が生徒は楽しめるし、成長もできる」

 今夏、3校の連合チームで出場する六戸(青森)の柳町宗貴監督(38)は「部員数が9人未満の学校が増えた。柔軟に連合チームが組めるシステム作りを」と要望した。「丸刈りの廃止」「私学にも部活動の週休2日制を求める」なども多数あった。

「教育の一環」の理念を前提に

 「一部の高校に選手が集まり、地域の公立校は近いうちに野球部が成り立たなくなる」。朝日新聞が全国約4千の加盟校に行ったアンケートでは「二極化」を嘆く声が多数あった。

 部員数が10人未満の学校は10年前の約3倍。100人以上の大規模校は校数が初めて3桁に乗った。野球を「みっちりやりたい」生徒は強豪校に集い、「適度にやりたい」生徒は少人数で分散し、1回戦負けばかり。そんな構図が広がる。

 高校野球は「教育の一環」を掲げる。「部活動」としてすべての球児が満足し、成長できるような仕組みが求められている。

 例えば、今の時代、野球部だからと言って丸刈りにする必要はない。甲子園を目指して毎日猛練習する学校ばかりじゃなくてもいい。そんな「選択肢」が広がるような環境づくりが欠かせない。

 「今こそ、日本高校野球連盟が旗に掲げる『Fマーク』の精神に立ち返るべきだ」。新潟の高校で指導経験があり、子供たちへの普及活動にも取り組む日本ハムの大渕隆スカウト部長は言う。

 フレンドシップ、フェアプレー、ファイト。「野球というスポーツを通して、規律や、仲間と支え合う力など、社会に通ずる精神を学ぶ。そこが一番の目的であり、野球の魅力なのに、今は『ファイト→勝利』ばかりが優先されていないか」。結果、一部の投手に負担が偏る選手起用などがある。

 アンケートでは、約9割の指導者が「教育の一環という考えは今後も守るべきだ」と答えた。この理念を前提に、大会のあり方、部のあり方を時代に合わせて考えていく時期にきている。山口史朗