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 13億人の巨大市場インドで、日本食の進出が本格化している。ただ、流通インフラの整備の遅れなどで出店は簡単ではない。日本の官民が協力し、インドでの食品・物流産業の改善を目指す。

 「牛丼チェーンの吉野家がインドに進出か」。吉野家ホールディングスがインド進出のための子会社「吉野家インディア」を4月に設立し、インド在住の日本人の間で話題となった。

 吉野家は中国や米国、インドネシアなど海外10カ国・地域に計約800店舗を展開。グループ店舗数の4割が海外だ。半田由里子・広報IR部長は「成長の可能性が大きい人口大国インドに出店しない理由はない」と語る。年内にも1号店が出る予定だ。

 吉野家といえば牛丼。だが、人口の8割を占めるヒンドゥー教徒が神聖視する牛の肉は使わない。同社としては初めて「吉野家」ブランドを使わずに進出を検討。鶏肉やインドに多い菜食主義者(ベジタリアン)向けの別メニューで挑む。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、インドで日本食を出す店はこの2年で20店増え、約70店舗となった。しかし、吉野家が狙う客層はあくまでもインド人だ。「地元の人に愛される店でなければ進出する意味はない」(半田部長)という。日本食は現地の若者やファミリー層を中心に人気が高まっている。ムンバイの高級モールに、娘とすしを食べに来た主婦パテルさん(45)は「ヘルシーでクール。おいしい」と話した。

 カレー大国インドで、インド人向けに日本式カレーやラーメンを出す店もある。居酒屋などを展開するクウラクグループ(千葉市)の「TOKYO TABLE」だ。首都ニューデリー空港近くのフードコートに昨年末、本格オープンした。

 出店のきっかけは、日本人向けの居酒屋にデートなどで来店する若いインド人が増え、カレーうどんが好評だったこと。ベジタリアンに配慮し、動物性油脂の入ったカレールーを使わず、野菜を煮込んでつくる。牛肉だけでなく、イスラム教で禁じられている豚肉も使わない。2020年までに100出店という高い目標を掲げる。

 インドの高所得層は、車の購入時も自宅に運ばせて選ぶほど、「宅配文化」が進んでいる。そこに目をつけ、ムンバイで11年から宅配すしを中心に手がけているのが、「スシ・アンド・モア」を展開するラ・ディッタ(東京都港区)だ。

 人気メニューは、七味を混ぜたサーモン巻き(8巻、約1600円)や、ベジタリアン向けのアボカド入りカリフォルニア巻き(8巻、約680円)など。最近、すき焼き丼やスパイシーみそ丼なども、メニューに加えた。大谷貴朗取締役は「現地向けのアレンジは必要だが、日本人が食べてもおいしいものを出して日本文化を伝えたい」と話す。

 ただ、インドでの出店は一筋縄ではいかない。停電で、ネット注文の受け付けや調理ができなくなることがしばしば。生鮮品の多くは輸入に頼るが、冷凍食品を運ぶインフラが整っておらず衛生状態も悪い。高い関税でメニューの価格は跳ね上がりがちだ。クウラクでは仕入れ先に専用冷蔵庫を用意してもらい、鶏肉などの品質管理を徹底する。

 こうした食品流通のインフラの遅れを改善しようとする動きも出てきた。

 インド市場でシェア首位の自動車メーカー、スズキと鶏卵大手イセ食品(埼玉県鴻巣市)などは5月、インドの食品流通のインフラ整備を官民で進める「日印フードビジネス協議会」を立ち上げた。会長には、スズキの鈴木修会長が就任。インドにはほとんどない保冷車を普及させ、新鮮な卵や生鮮食品の物流改善などに取り組む。熱を通さないと卵が食べられなかったインドで、卵かけご飯が食べられる日が来るのも、そう遠くないかもしれない。(ニューデリー=奈良部健)