「岡山の乱」が問いかけるものは 地方バス会社の苦悩

村上友里
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 岡山県の大手バス会社が今年2月、31の路線を廃止すると国土交通省に突然届け出た。その後、廃止届は取り下げたものの、国を相手に裁判を起こした。何を訴えているのか。「岡山の乱」が注目されている。

 4月下旬、緑色の小型バスが、新しい路線を走り始めた。JR岡山駅付近と、そこから10キロほど東にある西大寺地区を結ぶ乗り合いバス「めぐりん益野線」。運行するのは岡山市の中心部を循環する「めぐりん」を走らせている八晃(はっこう)運輸だ。

 6月上旬、益野線のバスに乗っていた市内の派遣会社に勤める女性(62)は、「安いのでこれからは毎日めぐりんに乗ろうと思う」と話した。益野線は、大手「両備グループ」の基幹路線である西大寺線とほぼ重なる。岡山市中心部から西大寺地区までの運賃は250円で400円の両備より4割近く安い。

 八晃がこの路線への参入を国に申請したのは昨年春のこと。両備は反発した。競合により「年3億円近い減収になる」との試算が出ていた。

 廃止届を3月に撤回後、4月には国を相手に、八晃の新路線の認可を取り下げることを求める訴訟を起こした。さらに両備の労働組合は、新路線の運行開始日に合わせ、西大寺線と市中心部を走る路面電車全線であえて運賃をとらない「集改札スト」を終日実施し、抗議の意思を示した。

 両備がいったん廃止を届け出た31路線は、いずれも赤字路線だ。両備グループの小嶋光信代表は、黒字路線の利益で赤字路線を維持してきた構造を明かした上で、「地方の公共交通を維持するには、過当競争を是正する法整備が必要だ」と主張する。

 この考えに真っ向から反論するのは八晃の成石敏昭社長だ。「黒字路線の利用客は不当に高い運賃を負担することになってしまう」

 国は1990年代後半以降、さまざまな交通事業について、参入や料金設定にかかわる規制を緩和し、競争を促した。こうした規制は利用者に重い負担を負わせ、既存の事業者の利権を守るだけだとの指摘が政府内で強まった。これを受けて航空やタクシーなどに新規参入が相次ぎ、既存の企業に価格競争を仕掛けた。

 バスでも2002年の道路運送法改正で、乗客数に合わせて事業者数などを制限する規制を廃止した。事業者が急増して基幹路線は競争が激しくなり、かつての「ドル箱路線」はもうけにくくなる。一方、周辺部の路線は人口減少もあってさらに乗客が減る。

 国交省の統計によると、16年度のバスの乗客数は42億8千万人。1960年代後半から約4割に減った。30台以上の車両を持つ全国246社のうち63%の157社が赤字で、三大都市圏をのぞくと82%が赤字だという。乗客が減った路線でも、足にする住民は残っている。廃止は自治体の反発を招くことにもなり、簡単ではない。

 国もここにきて、地方の公共交通の維持に本腰を入れ始めた。専門家らが地域公共交通の将来像を話し合う国土交通省の懇談会は昨年7月、企業統合など交通事業者の経営力強化も必要だとする提言をまとめた。

 懇談会で座長を務めた山内弘隆・一橋大学大学院教授(交通経済学)は「バスは公共性があるサービス。競争を生かしながら官民がどこまで協調するのか考える段階にきている」と指摘する。

 両備が起こした「乱」の解決に向けて岡山市は、「市公共交通網形成協議会」の場で、両備や八晃も交えた議論を重ねる。都市部の利用者の理解も得ながら、地域の足を守る方策が見つかるか。全国の関係者が見守っている。(村上友里)