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 「早く帰れよー」。平日の午後7時半、角館(秋田)の湯沢淳監督が呼びかける。ミーティング後の部員は急いで着替え、グラウンドを去る。「鍵係」の藤本康太君(3年)が施錠し、湯沢監督に鍵を渡して、この日の部活が終わった。

 角館野球部は、自主練習や「朝練」を禁じている。練習時間は平日は放課後の午後4~7時。朝から練習試合などがある土曜、日曜の活動も、午後5時には終わる。月曜は休みだ。

 同校OBの湯沢監督が「禁止」を導入したのは4年ほど前。社会人野球で活躍した経験から、大人の自主練習は必要と考えている。でも「高校生は自分の課題を見つけるのが難しく、自己満足の時間が多くなる。仲間と話すなど集中できる時間は限られ、睡眠や休養の時間も削られる」

 部員と個別に話し合い、必要と認めなければ居残り練習をさせていない。

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 その分、質は意識する。「一球への集中」「球速アップ」など、目的が明確なメニューを策定。選手59人の練習内容にレギュラーと控えで差が出ないように、ローテーションで回す。

 主将の高階陽希君(3年)は「短い時間だから集中できる。チームの特長の1イニングで逆転する力も磨かれる」と話す。

 部員は1日7時間以上睡眠をとり、3年生の約半分は「特進クラス」に所属する。赤上洸君(3年)は部内有数の成績を収め、課題の出し忘れもない。「中身の濃い練習後は、自分の時間を作れる。野球以外も頑張れる」とはにかむ。

 野球にも成果が表れている。全部員の筋肉量やスイング速度、球速などの数値は、「禁止」前の水準を上回る。ほぼ全員が地元出身の中、2014年に夏の甲子園に初出場し、16年には秋田大会準優勝。県南地区で屈指の強豪になった。

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 野球部の練習は全国的に「時短化」が進む。朝日新聞社と日本高野連が今年実施した加盟校への調査で、平日の練習時間を「3時間未満」と答えたのは50・4%に上り、前回の5年前から約7ポイント増えた。

 ただ、秋田県では「3時間未満」は27・1%にとどまる。約6割の学校が「3~4時間」だった。一方で休養日はしっかり設定されていた。休暇期間を除く練習日数を「毎日」と答えた学校は全国は12・6%あったが、秋田県は2・1%と少なかった。

 県が13年にまとめた手引は、生活と成長のバランスの観点から、平日の活動は「2~3時間」と求めている。ただ、県内の8割以上のチームが、全体練習の後などに自主練習を実施している。「自分と向き合う大切な時間」(能代松陽・佐藤龍之介主将)といった肯定的な声も多い。

 では、効果的な自主練習には何が必要なのか。高校野球の指導経験もある筑波大体育系の川村卓准教授(野球コーチング論)は「目的の明確化」を挙げる。「指導者は数値化して劣る部分を示したり、具体的な課題点を指摘したりすることなどが大切だ」

 疲労がたまった中での自主練習は「集中力を欠き、危険」。一方で、監督の指導のない「遊び」を織り交ぜる必要性も指摘する。

 「最近は幼少期からチームに所属し、指導者のプレッシャーを感じる環境が当たり前になっている。『遊び』を通して変化球を覚えるなど、リラックスした自主練習が技術の向上に資することもある」と話す。(神野勇人)

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