中村通子
川崎医大(岡山県倉敷市)と広島大などの研究チームは「ゲノム編集」の技術を応用した新しいがん治療戦略を開発した。遺伝子を狙い撃ちする抗がん剤「分子標的薬」などが未開発か効果がないタイプのがんに有効だという。27日、米のがん治療専門誌電子版に掲載される。
肺がんは、できる組織によって4種類に分かれ、特性や治療法が異なる。川崎医大の深沢拓也准教授と広島大の佐久間哲史講師らはその中で、扁平(へんぺい)上皮がんと呼ばれる種類を対象にした。喫煙者に多く、有効な分子標的薬がまだない。肺以外に、食道や皮膚などにもできる。
研究チームは扁平上皮がんの細胞に多いある遺伝子に注目した。この遺伝子が働かないようにすると、がん細胞の増殖が抑制されるが、有効な手段はまだ見つかっていなかった。
研究チームは、特殊なたんぱく質を使ってDNAを切り取ったり、書き換えたりする「ゲノム編集」という手法を改変。DNAを切らないまま複数の部分にくっついて遺伝子を読み取れなくする新たなたんぱく質を設計し、がん細胞に対する働きを調べた。
その結果、培養実験では、新たんぱく質を加えたがん細胞は、増殖量が肺がんで4割、食道がんで3割に抑えられた。
また、少量のがん細胞をマウスの背中に注入した実験では、新たんぱく質を加えたがん細胞は増殖せず、加えていないがん細胞は急激に増殖した=グラフ。
ただ、この新たんぱく質をがん細胞内に取り込ませるには、ウイルスを使う必要がある。ウイルス自体の病原性や、がん以外の細胞にウイルスが侵入するなどの懸念があり、臨床応用への難点となっている。そのため、研究チームは現在、ウイルスを使わない手法を開発中という。
深沢さんは「今回の手法は、分子標的薬に比べ開発コストが安く、薬の開発が困難ながんに対する新たな治療法になる可能性がある。臨床で使えるよう、工夫を重ねていく」と話している。
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