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 大阪府北部を震源とする最大震度6弱の地震で、倒壊した塀の下敷きになって2人が亡くなったことを受け、自治体では通学路を中心に民家の塀の点検が進む。ただ、「個人の財産」のため、撤去や補強は住人の判断に任される。自治体側は撤去費用への補助制度づくりに動き出したものの、「民間」特有の難しさが浮き彫りになっている。

「この塀やと、厚さが14センチないと」

 大阪府枚方市の通学路。民家の塀を、3人の市職員が先月27日に点検していた。

 「この塀やと、厚さが14センチないとあかんねん」

 教育委員会の職員が別の職員に呼びかけた。目の前には、高さ約140センチの鉄筋が入っていない塀。建築基準法施行令では、厚さは高さの10分の1以上必要だ。土木部の男性職員が、塀の厚さをメジャーで測定。「ないですね。10センチ」。施行令に適合しない可能性があると記録した。

 今回の地震では、大阪府高槻市で女児が倒壊した学校のブロック塀の下敷きになって死亡。大阪市東淀川区では男性が民家の塀の倒壊で亡くなった。大阪府教育庁は地震発生後の先月21日、「危険なのは学校の塀だけではない」として、大阪市と堺市を除く府内の市町村教委と府立学校などを対象に、通学路にある民家などのブロック塀を点検するよう依頼。「(鉄筋などで補強されたブロック塀なら)高さが2・2メートル以下」など、建築基準法施行令に沿った点検表で調べて報告するよう求め、今後、結果を公表する予定だ。

 枚方市の場合、地震後に小中学校から「危険性がある」と報告された、民家などのブロック塀約80カ所を市教委職員らが点検。ほぼ全ての箇所で、建築基準法施行令に不適合か、目視での点検が困難な項目があった。

 被災地には、地震で亀裂が入り、「素早く通り過ぎるように」と注意喚起の紙が貼られた民家の塀もある。小学生の子どもがいる枚方市の女性(36)は「学校だけではなく、民家の塀も安全にして欲しい」と訴える。

住民「お金かかる」 自治体が費用補助も

 民家の塀は「個人の財産」のため、撤去などの判断は住人次第。対応は様々だ。

 小学校の通学路沿いに住む女性(68)は地震2日後に業者を呼び、地震前からの塀のゆがみを直す工事を始めた。「子どもたちに万が一のことが起きたら、個人では背負いきれない」

 別の男性(63)の塀は今回の地震で亀裂が入った。地震後、子どもたちが自宅前を迂回(うかい)して通学していると知り、業者に見積もりを依頼したが、支払いを心配する。「余裕があるわけではない。補助が欲しい」

 一方、40代の女性は「うちの塀は地震で被害もなかった。お金もかかる話で、対応は考えていない」と話す。被災自治体が調査した中には、空き家とみられるケースもあった。

 自治体は、住民への「お願い」を進める。豊中市は、危険性があると判断した民家を対象に、安全対策を求めるチラシをポストに投函(とうかん)したり、市職員が訪問して対策を依頼したりしている。担当者は「地道に理解を求めるしかない」と話す。

 自宅の塀が倒れて死傷者が出たら、責任を問われるのか。建築問題に詳しい関口郷思(さとし)弁護士は「塀が今の耐震基準を満たしていない場合、損害賠償責任が発生する可能性が極めて高く、過失致死傷罪などの刑事罰に問われる恐れもある」と指摘する。熊本地震でブロック塀の下敷きとなって死亡した男性の遺族らは、塀の所有者に計約6800万円の損害賠償を求めて係争中だ。

 撤去などに向けたハードルが、費用だ。塀の施工業者などで作る公益社団法人「日本エクステリア建設業協会」によると、長さ10メートル高さ1・6メートルのブロック塀で一般的な撤去費用は10万~15万円ほど。フェンスなどを設置すればさらに膨らむ。

 大阪府内の自治体では、撤去費用の補助制度を独自に創設する動きが出ている。大阪市はブロック塀を軽量フェンスに置き換える費用の半額を補助する制度を新設すると発表。高槻市や堺市、交野市も補助制度を創設する。豊中市、和泉市も創設する方向で検討中だ。高槻市や大阪市は国の財政支援を求めており、国土交通省は「支援の必要性について考えていきたい」とするが、結論は出ていない。

 民家のブロック塀に詳しい福岡大の古賀一八教授(建築防災学)は「自治体は簡易な手続きで使える補助制度を作り、国は財政支援をすべきだ。塀の危険性への意識は、住民で個人差が大きい。行政の『お願い』には限界があり、自治会ごとに専門家を呼んで塀を診断してもらうなど、地域の取り組みも必要だ」と話す。(長富由希子