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 「ラグビー部行くか?」

 2年前の10月、星林高校(和歌山)の廊下。当時1年生だった野球部の法眼(ほうげん)勇太郎君(3年)は、野球部の岩尾元(はじめ)監督(47)にそう声をかけられた。はじめは冗談かと思った。

 ラグビー部は当時、部員数が10人余り。試合に出られる15人に満たず、新人戦に出場するために期間限定で助っ人を探していた。「体力があって、ガッツのあるやついませんか」。ラグビー部の庄田光一監督(35)が岩尾監督に相談し、白羽の矢が立ったのが校内のマラソン大会でトップクラスの法眼君だった。

 「野球の技術はさっぱりだし、期待されてないのかもしれない」。声をかけられた法眼君は悩んだ。ラグビーの大会は、主に野球のオフシーズンにある。「筋トレもして体力つくし、経験を積んでこい」。ラグビー経験はないが、岩尾監督にそう送り出され、ラグビー部の門をたたいた。

 大会までの約2カ月間、ラグビー部で練習をした。加入後すぐにあったミニゲームでは強烈なタックルを受けた。同じグラウンドで練習している野球部員たちを横目に、「こんなん野球やったら考えられん。早く野球部に戻してくれ」と思った。

 しかし、きつい練習に耐えると、成長を感じた。筋力もついてきた。2年生になっても助っ人として呼ばれ、大会前に1カ月ほどラグビー部に行った。与えられたポジションは「フランカー」。体力と走力、そしてタックルをする勇気が必要なポジションだ。花園を目指す昨秋の県大会では1勝して8強、今年1月の新人戦でも1勝して4強に入った。ラグビー部の庄田監督は言う。「ラグビー選手としては抜群ですね。何よりハートの強さには部員たちも刺激を受けています」

 大会には野球部の仲間たちが応援に来てくれた。今年1月の大会後、無料通信アプリ「LINE(ライン)」で「応援ありがとう。明日から戻ってホームラン連発するからよろしく」とメッセージを送った。「おつかれ、よかったぞ」「またがんばろう」と返事が来た。それがうれしかった。

 野球選手としては、1年の夏も2年の夏もベンチ入りを逃した。入学後の1年半は打てない時期が続いた。一時期は悩んで左打者に転向したときもあった。不安をかき消すように、ラグビーの練習後にも素振りやキャッチボールをした。

 ラグビー部に行って変わったのは、トレーニングへの意識。「体作りの大切さが身に染みた」。この1年で5キロほど体重が増え、打球の飛距離が伸びた。昨秋に新チームになってからは、練習試合で本塁打を4本放っている。佐藤駿主将(3年)は「法眼はチームで一番打撃が伸びた。去年まではヒット打ったら『うわ、珍しい』って思うほどだったのに」と話す。

 今夏は外野手と捕手の控えとして、好機での一打を期待されている。大会にはラグビー部の仲間が応援に来る。「野球が終わったらまたラグビー来いよ」。そう言われている。「花園に行けるチャンスに感謝しています。でも、今はとにかく甲子園を目指すことしか考えていない」。好投手を擁する和歌山東との初戦は14日。「どんないいピッチャーでも、チャンスをもらえたら一打席で仕留めたい」。ラグビー部で培ったパワーを自信に、夏の出番をうずうずして待っている。

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