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 6月の放課後。大多喜城(千葉県大多喜町)のふもとに広がるグラウンドで、大多喜の磯野竜也君(3年)は、投球練習に励んでいた。

 大多喜は昨夏、2回戦で実力校の稲毛に敗退。その後できた新チームで、磯野君は一塁手から投手に転向した。直球のほかに多彩な変化球を身につけ、抑え投手を任されることが多い。

 今年こそは――。勝利へ闘志を燃やし、日々、投球に磨きをかけている磯野君。実は、野球と同じぐらい熱心に打ち込んでいることがある。和菓子作りだ。

 小さい頃から、お客さんが家に持ってくるお土産の和菓子が楽しみだった。お気に入りは、色や形に工夫をこらした「上生菓子」。中学2年の職場体験では、地元の和菓子職人、山口正乙(まさと)さん(45)の店で1週間、修行。あんに卵黄を混ぜて蒸した「黄身しぐれ」の作り方を教わった。

 山口さんと自分の作った黄身しぐれは、材料も手順も同じはずなのに、味も見た目も全く違った。「おもしろい!」。店頭では、男性客から「和菓子は日本の大切な文化。なくしちゃいけないよ」と言われた。職人の高齢化、日本の文化として海外にさほど広まっていないこと……。山口さんからはそんな話も聞いた。

 高2の夏、磯野君は東京の製菓専門学校のオープンキャンパスに参加。どら焼きを作りながら、和菓子の魅力は「一番おいしい部分が外から見えないことだ」と教わった。イチゴがすぐに見えるショートケーキと違い、あんが生地の中に隠れている、どら焼き。そこにこそ日本の繊細な文化が隠れていると感じ、思いは固まった。「僕が和菓子を守り、世界に広めたい」。いつか和菓子職人になり、地元に店を開くと決めた。

 それから月に1回ほど、休日に家で上生菓子やどら焼きを作った。できた和菓子は部室に持っていき、チームメートに振る舞う。

 マネジャーで磯野君の幼なじみの太田姫菜子さん(3年)は「お店のような味で、びっくりした」と話す。みんなを笑わせるムードメーカーで、野球にも懸命な磯野君に「大多喜といえば竜也の和菓子屋、と言われるくらいがんばってほしい」とエールを送る。

 野球と和菓子づくりは「どちらも繊細で難しい」と、磯野君は話す。和菓子はあんをこねる時間や手先の使い方、生地の焼き具合を少し変えただけで味が大きく変わる。投球も、指先の使い方や体の動かし方を少し変えるだけで、球のキレや速度が変わるという。

 細かな手作業が多い和菓子作りを始めてから、野球にも思わぬプラスの効果があった。「ここぞ」という場面での集中力が増したのだ。小4から野球を続けてきた磯野君は、「出場の機会は少なくても、確実に役割を果たしたい」と意気込む。二つの「夢」を追って強くなった精神力を武器に、最後の夏に挑む。(松島研人)

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