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 野菜栽培や花などの園芸農業が盛んな愛知県全域が、農作業に携わる外国人を受け入れやすくする国家戦略特区に選ばれた。技能実習制度で農業を学んだ外国人が再来日して、派遣労働者として働ける。人手不足を補う存在として期待されているが、農業では作業の大変さや労働条件の厳しさから技能実習生の失踪が多く、課題を指摘する声もある。

 「外国人に働いてもらわないと農家を維持できない。外国人頼みです」

 愛知県田原市で7代続く農家の小久保将啓さん(62)は、2008年から地元農協を通じて外国人技能実習生を受け入れている。

 妻(60)と長男(33)で家業を続けていて、夏はメロン、冬はミニトマトの農作業がある。だが、日本人のパート従業員は集まらない。今はフィリピン人2人を最低賃金の時給871円で雇う。

 メイチェル・クデーラさん(27)は昨年3月に来日した。白血病になった兄の治療費の工面のため実家がドリアン畑を売ったといい、「日本で稼いで畑を買い戻す」のが目標だ。月の手取り約15万円は、母国の平均的な月給の8倍という。

 県によると、農業の技能実習生は15年度末時点で全国に2万1775人いる。このうち1198人が愛知県内で、都道府県別で全国4位の多さだ。県内では、野菜や花といった販売単価が高い農業現場が実習生を積極的に受け入れてきた。

 県は3年の技能実習を終えて帰国した実習生を「即戦力」ととらえ、16年11月、さらに在留を認めて農業に就労できるよう、内閣府に特区を提案。今年3月、京都府と新潟市とともに認められた。

 特区では、1年以上の実務経験や必要な技能、日本語能力などを条件に、派遣会社などの「特定機関」が外国人と雇用契約を結び、農家や生産法人に派遣できるようなった。派遣される外国人は通算3年働くことが可能で、技能実習制度とは異なり、農繁期に柔軟に働けるように勤め先の農家も変更できる。

 愛知県は、関係業者の監査などに当たる協議会を全国で初めて設け、4月26日に初会合を開いた。協議会には、法務省名古屋入国管理局や厚生労働省愛知労働局といった関係行政機関などが参加。県は派遣会社の基準づくりなどを始めた。大村秀章知事は「高齢化や人材不足が深刻だ。強い農業を実現したい」として、愛知を農業での外国人受け入れのモデルにしようと意気込む。

 しかし、小久保さんは特区の活用には様子見の姿勢だ。実習生を自宅敷地内の部屋に泊め、食事も一緒にとっている。「実習生は家族同然。派遣でぱっと来てぱっと働く形で面倒をみきれるだろうか」と疑問を口にする。

 田原市内で中国人実習生5人を最低賃金で雇う別のトマト農家の男性(56)も「日本人と同じ賃金で派遣で、となると経営的に難しいかも」と話す。

 法務省によると、農業分野では17年に1207人が失踪しており、分野別では建設(2582人)に次いで多い。技能実習生の相談に乗る愛知県労働組合総連合の榑松佐一議長は「派遣先が複数の農家にまたがり、責任があいまいになる恐れがある。失踪者も増やしかねず、外国人が安心して働ける対策がいる」と指摘している。(前川浩之)