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漫画家・渡辺保裕さん

 私は、全国を巡って「球場グルメ」を食べ尽くす漫画「球場三食(さじき)」を連載していました。

 子供のころ、父に連れられて後楽園球場で食べたカレーが記憶に残っています。父は「後楽園はカレーがうまいんだよ」と言いましたが、私にはピンとこなかった。料理人だった父が作るカレーの方がおいしいな、なんて思いながら食べました。懐かしい思い出です。食の記憶って、いろんな経験、体験と密接に結びついているんだな、と思います。

 甲子園では去年、夏の高校野球とプロ野球・阪神戦を観戦しました。かちわり、焼き鳥、から揚げにピザにうどんも。おなかいっぱい食べて、漫画に描きました。

 甲子園は、歴史と伝統ある球場ですが、売り子さんや警備員も含め、格式張ったところがなくて、ホスピタリティーにあふれていて好感が持てます。球場の食べ物と言えば値段が高い割においしくない、というイメージですが、全国一のグルメな球場です。歴史にあぐらをかかず、新しいメニューでお客さんを楽しませようという挑戦的な姿勢がいいですね。

 私はビールを飲みながら観戦するので「ジャンボ焼鳥」が好きです。今季はなくなってしまいましたが、タンドリーチキンソース味がとてもおいしかった。お気に入りのメニューが無くなるのは寂しいけど、どの味が好まれるのか、試行錯誤しているのでしょう。

 去年の夏の高校野球ではホットドッグ「ヘルマンドッグ」を売っていました。1934(昭和9)年、米・大リーグ選抜チームが甲子園で試合をした際、日本で初めて販売したホットドッグだそうです。神戸のドイツ人のソーセージ職人、ヘルマンさんが作ったと聞きました。歴史ある球場ならではのエピソードだな、と思いながら食べました。

 歴史と言えば、ほっともっとフィールド神戸で食べた「沖縄黒カレー」。コクがあって、ほどよく辛い。漫画を描くために巡った全ての球場で最もおいしいカレーでした。「なぜ神戸で沖縄?」と思いましたが、聞くところによると、阪神工業地帯には、その昔、沖縄から働きに来て移住した方が多く、神戸と沖縄はゆかりが深いそうです。球場グルメを通じて地域の歴史を知ることもできる。球場グルメは、奥が深いです。

 最後に、値段について一つだけ提言を。一般的に球場グルメは高めの価格帯で、その中でも甲子園は良心的な方なのですが、これでは大人だけの楽しみになってしまいます。もう少し安くするとか、学割を用意するとか、子どもたちや学生にも気軽に食べてもらう工夫があるといいなと思います。プロ野球、高校野球の聖地的存在の甲子園が先駆けてほしい取り組みですね。

     ◇

 わたなべ・やすひろ 1967年生まれ。グルメや野球を題材にした漫画を手がける。週刊漫画ゴラクで「ドカせん」連載中。熱烈な近鉄ファンだったが、今は「穏やかなプロ野球ファン」。今年1月まで月刊漫画誌「アフタヌーン」に「球場三食」(全4巻、講談社)を連載した。好きな球場グルメは、1位=メットライフドームのコロラドピザ▽2位=京セラドーム大阪のいてまえドッグ▽3位=甲子園の「ジャンボ焼鳥(やきとり)」――という。