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 球音が響く紀央館のグラウンド。威勢のいいかけ声と砂が舞う横で、選手が手慣れた様子でツナ缶のフタを開け、箸でつついて食べ始めた。練習の合間のいつもの風景だ。「たんぱく質は1回の食事に40グラムとるのがいいと教えてもらった」と選手たち。一風変わった食事にはトレーナー直伝の理論があった。

 「炭水化物は運動に必要なエネルギー。車で言うとガソリン。なるべくたくさん体の中に蓄えておきましょう」。今月2日、スクリーンの前に立ってこう呼びかけたのが、トレーナーの田中優樹さん(30)。選手たちは真剣な表情でメモを取りながら話を聞いた。

 この日は、大会1週間前の食事についての講義。紀央館OBで昨年からチームの指導に加わる田中さんがどんな食材をどれくらいの量食べたらいいかについて、説明していく。「1週間、意識して食事をとって」「普段より多めなイメージで」。特に初戦を迎える13日については、朝食から試合中にとるべき栄養素まで細かく説明。講義は約1時間に及んだ。

 田中さんは紀央館1期生で、投手だった。広島の大学に進学し、その後、専門学校へ通い、はり師の資格を取った。食事についての知識は独学で学び、広島でスポーツトレーナーとして活動していた。吉水智章監督に誘われて地元に帰ってきた。

 チームでは、体に関わることすべてを指導する。食事はもちろん、けがの予防や治療方法、ストレッチなど。田中さんが来てからは大きなけがをする選手はいなくなったといい、吉水監督は「すべて一任している」と信頼を置く。

 チームのトレーナーになってすぐ、田中さんはあるシートを作った。選手それぞれの体重と身長から算出した適切な食事と目標体重が書かれた紙だ。選手たちは紙を基に食材を選び始めた。

 より効率良く栄養を摂取するため食事の回数を1日6回とし、選手たちはサバ缶やツナ缶、魚肉ソーセージを練習の合間に食べる。「たんぱく質がとれるので、いいんですよ」と田中さん。おにぎりを食べている選手を見つけると、「それ、具は何?」と話しかけ、「昆布ってミネラルが豊富でいいよ」と教える。

 中村翔太君(3年)は指導を受けてから商品の成分表を見るようになったという。「たんぱく質がどれくらい入っているかを見ます」。体重は10キロ増え、「今シーズンはホームランを量産してます。もう24本打ちました」と手応えを感じている。エースの為橋響君(同)はよく田中さんに食事やプレーの相談をするという。「下半身が太くなって安定がよくなりました。球速も速くなった。125キロから141キロです」と喜ぶ。

 田中さんは「紙を配ったときは目標体重を見て『こんなに増やさなあかんのか』って言ってたんです。でもだんだんプレーが変わってくる。オフシーズンになれば毎月、走るタイムとかボールを投げる距離を測って数字で示して成長をわかりやすくしています。そうすれば、トレーニングや食事の意味を理解してくれると思う」。

 食事やトレーニングを重視するが、それらが野球のすべてではないという。「野球での勝利を達成するための一つの手段。直接、勝ちにつながるわけではないけど、勝つ確率は上げられる。自分の体のことを適切に知って高校野球を悔いの残らないようにしてもらいたいです」(本間ほのみ)

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