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 「みんなが見つかるまでは離れられません」。西日本各地に被害をもたらした豪雨による土砂崩れで多数の民家が倒壊した広島県熊野町の住宅団地「大原ハイツ」では9日早朝から、救助作業を見守る男性がいた。島根県安来(やすぎ)市の会社員角森(つのもり)康治さん(54)。妻とその母親、息子2人の消息がわかっていない。

 妻奈々さん(44)とは知人の紹介で知り合い、先月14日に婚姻届を出したばかり。ともに再婚で、角森さんの職場が島根にあるため、別居中だった。6日夕に仕事を終えて広島へ。途中、午後8時過ぎに奈々さんに電話すると「増水しているから気をつけて来てね」。それ以降、奈々さんとの連絡は途絶えた。

 LINE(ライン)でメッセージを送ったが「既読」がつかない。交通規制に阻まれ、現場に着いたのは7日早朝。多くの民家が押し流されていた。

 奈々さんの家も10メートル以上流されて土砂に埋もれ、2階部分だけが見えていた。近くに婚約した時に贈った毛皮のコートとバッグがあった。「大切なものだから2階に上げておくね」と話していたものだった。「だめかもしれない」。初めてそう思った。

 近くの避難所で一夜を明かし、8日も現場へ。その午後、土砂の中から女性の遺体が見つかった。耳にはピアス用の穴が開いていた。「子どもがピアスの針でけがをしないように、今は付けてないんよ。でも、結婚する時はおしゃれしてもいいかな」。奈々さんの言葉がよみがえった。

 遺体が警察車両に運び込まれる直前に顔が見えた。妻だと確信した。ひざから崩れ落ち、涙が止まらなかった。女性の身元について警察が確認を急いでいる。

 7日は渡したばかりの結婚指輪を付けて、2人で神戸に出かける予定だった。「傷だらけかと思ったけど、顔はきれいでね。妻は本当は生きている。長い夢の中なんじゃないか」。今は、そう考えることしかできない。

 奈々さんと同居する母の青木裕子さん(71)、息子の美憲(みのり)君(13)、健太君(2)はまだ、見つかっていない。(原田悠自)