[PR]

 神戸の街をテーマにつくった67色の万年筆用インク。神戸の老舗文具専門店、ナガサワ文具センターが販売しているシリーズ商品「Kobe INK物語」が今春、優れたマーケティング活動を表彰する第10回日本マーケティング大賞の奨励賞に輝いた。ひとつひとつの色に物語があり、根強い人気を集めている。

 生みの親は商品開発室・執行役室長の竹内直行さん(63)。学生時代、カメラを片手に日本全国を旅した。気づいたのは、幼いころから育った神戸の街の魅力だった。

 ナガサワ文具センターに入社し、いつかは「神戸発の文具を」と意気込んだ。だが、阪神・淡路大震災が起き、店舗の立て直しなど復旧作業に追われた。

 それから10年余り。震災の復興でお世話になった人たちに手紙を書こうと思い立った。当時、万年筆のインクといえば黒か青か紺色の3択。神戸らしい色で感謝の気持ちを伝えられないか――。

 ふと思い出したのが、震災直後の街で疲れたときに決まって見上げた六甲山の深みのある緑だった。「震災で街並みが大きく変わっても、六甲の山並みの色は変わらなかった」。1色目となる「六甲グリーン」はこうして生まれた。

 「神戸の三原色」と呼ぶ、「波止場ブルー」「旧居留地セピア」とあわせ、2007年から販売を開始。デジタル化の波に押され、万年筆市場は下火になっていたが、口コミで評判が広がり、「ぜひ自分の街の色も」と声がかかるようになった。

 以来、休日のほとんどを取材にあてた。実際に足を運んで風景を眺め、地元の人に話を聞く。有馬温泉の金泉をイメージした「有馬アンバー」や、春節祭の縁起物に使われる吉祥の赤をモデルにした「南京町フォーチュンレッド」、梅の名所として知られた東灘区の「岡本ピンク」など、年に6色のペースで新しいインクを生み出した。

 どうしてもつくりたい色があった。震災発生から1カ月近く、垂水区の自宅からマウンテンバイクで三宮の職場に通った。帰り道、いつも海の向こうに沈んでいく夕日を眺めて走った。「垂水アプリコット」はそのときに見たあの美しい夕焼けの色。「なんでこんなきれいなんやろって。震災の後だからこそ余計きれいに見えたんでしょうね」

 海外からも人気を集め、昨年から米国や豪州、台湾への輸出を開始。銀座の文具店にも並ぶようになり、低迷していた万年筆インク市場で、年間約3万個にものぼる販売数を記録した。「今も頭の中に5、6色のイメージがある」と竹内さん。「神戸ほど色彩豊かな街はほかにない。色を通じて神戸の魅力を知ってもらえたら」(野平悠一)