【動画】物流が遮断 陸の孤島になった広島県呉市=佐々木康之撮影
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 三方にそびえる山と、目の前に浮かぶ島々に囲まれた広島県呉市。約130年前、この天然の要塞(ようさい)に軍港が築かれ、軍の機密とされた戦艦「大和」建造の地にも選ばれた。いまも22万人が暮らすこの地を、豪雨による土砂や濁流が覆い、街は陸の孤島になった。

 10日朝、JR呉駅前のガソリンスタンドには「給油は緊急車両のみ」と書かれた札が下がっていた。

 呉市では多くの店舗が7日から販売量を制限する営業に切り替えたが、9日までにガソリンが底をつき、休業が続出している。隣接する広島市や東広島市に通じる幹線道路の広島呉道路(クレアライン)や国道が寸断されたからだ。

 9日、山越えで呉市と熊野町を結ぶ県道が3日ぶりに開通し、一部の店は販売を再開したが、JR呉駅前のスタンドの店長(47)は「やっとローリーが来ることになったが、昼なのか、夜になるのか」。通常はガソリンと軽油で10キロリットル超を提供できるが、「10リットル制限で200台に売れるかどうか」と気をもむ。

 10日午後、経済産業省の依頼で海上自衛隊の輸送艦がガソリンなどの燃料を積んだタンクローリー車7台を海自呉基地に輸送した。陸路で到着した6台と合わせ、約250キロリットルを呉、江田島両市のスタンド約30カ所に分配した。

 スーパーやコンビニエンスストアも不安を抱える。

 呉市海岸4丁目の大手コンビニエンスストアには、9日昼前に商品配送のトラックが着いたが、下ろされたのはおにぎり約150個と弁当十数個。生鮮品はバナナだけ。オーナーの浜田久司さん(46)は「今日中に配送が平常に戻ると聞いている」。だが、10日朝になっても、弁当や生鮮品の陳列棚は空のままだ。

 水不足も深刻だ。

 9日朝、海上自衛隊呉基地。普段は開かない「D(デルタ)門」と呼ばれる門が開き、市民が次々と車で訪れた。目当ては基地に停泊する護衛艦「かが」など4隻の風呂だ。隊員が「入浴まで3時間待ち」の札を立てたが、引き返す車はない。

 水道の断水を受け、海自が8日に始めた。艦内の洗濯機も開放し、給水所も基地内に設けた。呉市の対岸の江田島市からも住民を乗せた揚陸艇が行き来し、艦内に特設した風呂に入ってもらっている。家族4人で訪れた呉市の主婦(36)は「地元の給水所では4時間も待った。ここでは入浴を待つ間に水を詰め、洗濯もできる」と笑顔を見せた。

 断水の原因は、広島市を流れる太田川から呉、江田島両市などに水を送る水道用トンネルのトラブルだ。豪雨が襲った6日夜に発生し、2市で10万世帯、約20万人に影響が出ている。広島県によると、トンネルに土砂が入ったのが原因で、復旧の時期は見えない。

 呉市は7日から各地で給水を続けているが、主力の給水車は1回に300リットルしか運べない。

 JR呉線も不通が続き、頼みの綱は海路だ。呉港には、広島港(広島市南区)に向かうカーフェリーや高速船を利用する通勤客や、広島への買い出しや一時的に呉を離れる人々の姿が絶えない。9日午前、広島港にフェリーで到着した主婦(57)は、「呉市の店からは食料が完全に消えた。JRも車もだめ。何とかフェリーに乗れて助かった」と語った。(佐々木康之、高橋俊成)

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