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 西日本に甚大な被害をもたらした記録的豪雨。県内では岩国市と周南市で計3人が土砂崩れに巻き込まれ、尊い命を落とした。周南市樋口の河村典子さん(64)は地区の福祉員として一人暮らしのお年寄りの世話にあたり、岩国市周東町獺越(おそごえ)の宮本智(あきら)さん(89)は「人格者」と慕われた地域のまとめ役だった。

周南の河村典子さん 慕われた福祉員

 典(のり)ちゃん――。

 河村さんは地域の人たちから親しみを込めてこう呼ばれていた。

 体の不自由な夫と息子2人の4人暮らし。裏山で土砂崩れが起きた7日午前2時過ぎ、夫と1階で寝ていたとみられる。息子たちは自力で脱出。やがて夫婦も救出されたが、河村さんは病院で死亡が確認された。

 「実直でやさしい人じゃった」。若い頃から河村さんを知る大中保忠さん(73)は振り返る。

 夫の面倒を見ながら、朝は新聞配達員として近隣の家々に朝刊を届けて回り、日中は岩国市内の特別養護老人ホームの厨房(ちゅうぼう)で働いた。5年前からは周南市社会福祉協議会の福祉員を委嘱され、「地域の世話役」としても奔走していた。

 同社協熊毛支部によると、福祉員の役割は「声かけ」や「見守り」。解決しなければならない課題があれば、民生委員らに橋渡しする。が、河村さんはそれだけにとどまらなかった。

 「典ちゃんはね。一人暮らしの年寄りをよく買い物に連れちょったですよ」と浅弘キヨ子さん(75)。

 地区には車のないお年寄りが少なくない。運転が得意な河村さんはみんなをよくマイカーに乗せ、市街地のスーパーやコンビニを往復した。

 河村さん宅の近くに住む河村繁さん(80)は、捜索開始から3時間以上が経った午前10時過ぎ、布団をかぶった状態で助け出される彼女を見た。

 「あんな土砂崩れは生まれて初めて。どうして起きたんじゃろうか」

 「典ちゃん」をのみ込んだ土砂とがれきの山を見つめ、声を震わせた。(三沢敦)

岩国の宮本智さん 柔和なリーダー

 「人の意見をよく聞いて、適切な判断をする地域のリーダー」。6日夜から7日未明にかけての大雨で自宅が流され、遺体で見つかった宮本さんを、近所の人たちはそうしのんだ。

 地域の自治会長を務める西蓮寺住職の林勉道(かつのり)さん(64)や家族によると、宮本さんは農林水産省に勤めていたが、定年退職後に郷里の獺越地区に帰ってきた。すぐに地域のまとめ役になり、一時期は自治会長も務めた。

 2年ほど前に妻を亡くして一人暮らしになった。最近は足腰が弱っていたが、地域で草刈りをするときは必ず顔を出し「作業できなくて申し訳ない」と寄付金を差し出したという。

 その宮本さんが遺体で見つかったのは7日午後だった。山あいの渓谷に住宅などが点在する集落で、集落沿いには幅数メートルの川が流れている。同日朝、宮本さんの近所で住宅が川に流され、ベランダで助けを求めた住民3人が県の防災ヘリで救助された。その際に、川沿いに立っていた宮本さん宅もなくなっていることが分かった。

 消防が捜索したところ、自宅敷地と川を挟んだ向かい側の道路で、土砂やがれきの下から宮本さんが見つかった。その場で死亡が確認されたという。

 獺越一帯には6日夕方から断続的に雨が降り、川は水かさを増していた。7日午前4時には避難勧告が出た。林さんは同日早朝、何かが流されるような激しい音を聞いて目が覚めたという。「宮本さんの家が流された音だったのかもしれない」と話し、「柔和で怒ったところを見たことがない人格者だった」と宮本さんを悼んだ。(滝沢貴大)