拡大する写真・図版 筒井頼子・作、林明子・絵 「はじめてのおつかい」(1976年)原画、福音館書店刊、原画は宮城県美術館蔵 母親に牛乳のおつかいを頼まれた女の子「みいちゃん」の、はらはらどきどきの小さな冒険。林さんの物語絵本デビュー作

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 はじめておつかいに行く子どもの胸の高鳴りや、少女を見守るぬいぐるみの愛らしさ――。「はじめてのおつかい」「こんとあき」などで知られる絵本作家・林明子さんの、初の大規模な展覧会「絵本のひきだし 林明子原画展」が19日、東京の松屋銀座8階イベントスクエアで始まる。デビューから最新作「ひよこさん」まで200点以上の原画やスケッチが並ぶ。

 展覧会は昨年4月に高松市で幕を開け、広島市、鳥取市、兵庫県伊丹市、仙台市を好評のうちに巡回した。ついに始まる東京での開催を前に、長野県の自宅から上京した林さんに話を聞いた。

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 ――各地の展覧会はどうでしたか

 「こんとあき」の舞台で、私自身の祖母がいた鳥取(市歴史博物館)は雰囲気がとても良くて、うれしかったです。宮城(県美術館)では、ちっちゃい男の子がずーっと長いこと絵を見つめていて、わきから様子をうかがっているだけでわくわくしました。

 ――林さんのインタビュー記事を探しましたがあまり見つかりません。ひょっとして取材は嫌いですか

 対面の取材はほとんどないです。雑誌のインタビューでも、質問をファクスでいただいて、そのやりとりを臨場感ある記事に仕立ててもらいました。緊張しちゃうのか、取材を受けると、次の日寝込んだりするので、サボらせてもらっています。あしたはぐったりしていると思います(記者付記。翌日電話で話したところ、お元気な様子で安心しました)。

脂汗の日々でした

 ――お仕事の集大成ですね

 改めて見て、随分一生懸命にやってきたんだ、がんばったねと思いました。その都度死にものぐるいで。お金がもらえるような絵になるよう山のように描き直して、脂汗の日々だったことを思い出しました。

 下絵をトレーシングペーパーと焦げ茶の色鉛筆で描くんです。1枚描いたらその上にペーパーを重ねて、気に入らない部分は描き直す。首のかしげ方とか頭が大きすぎたとか。数え切れないほどペーパーを使いました。ペーパーと色鉛筆を発明した人にいつも感謝していました。次の仕事は来ないなと思ってばかりでした。

中原淳一、手塚治虫にあこがれた

 ――自分では納得できなかったのですか

 (小さいときから)細部まで見事に描写する、挿絵画家の中原淳一さんへのあこがれが強くて、そのレベルにはとても到達できないと思っていました。小学校の謝恩会では中原さんの絵を模写して友だちと紙芝居を披露しました。ほかにも手塚治虫さんが雑誌「少女クラブ」に描いた「リボンの騎士」、池田浩彰さんの「小公子」などの挿絵もすてきでした。日本画の上村松園さんのすだれ越しに人がいるような超絶技巧に、私には無理だなと思いました。

 ――林さんの作品には、独特の温かみがあって一目でそれとわかります

 私は引っ込み思案で無口と言われていました。このごろはよくしゃべるんですけどね。

 生活費は自分で稼がなきゃいけないと考えていて、大学の先生にイラストレーターの真鍋博先生のアトリエを紹介してもらいました。夏にアルバイトをしたら、「就職しませんか」と誘われました。とてもハードだったので、年賀状に振り袖の女の子が手をついて謝っている絵を描いてお断りしました。でもまた誘っていただいて、結局就職したんです。

 あるとき「先生は個性があっていいな」と言ったら、「個性なんて自然に出てくるよ」って。私は個性を出そうとしなかったのが、何となく個性になったのかもしれません。

めいっ子・おいっ子をモデルに

 ――絵本の作品はどのように

 原作を徹底的に読み込んで主人公を好きになります。それから映画監督のように、登場人物のしぐさを考えます。めいっ子やおいっ子をモデルに観察したり、写真を撮ったりして参考にしました。

 ――「はじめてのキャンプ」(1984年、福音館書店)以降、絵だけでなくお話も手がけるようになります

 一番良かったのは、登場人物の名前を自分で付けられることでした。おい・めいの名前を登場させました。「こんとあき」のあきちゃんも、めいっ子の名です。彼女はいま小児科の看護師で、そんなことを知らない患者の子どもたちから「こんとあき」を読んでってせがまれるんですって。

最高の編集者と結婚

 お話を作るようになったのは、担当編集者で後に夫になった(故)征矢清(そやきよし)さんの勧めでした。はんごうを持ってきて「キャンプの絵本を描いてください」。子どもたちの北海道のキャンプに参加して、4泊かな、雨が降り、次に満天の星が出てと、本の通りの経験をしました。

 それでもお話を書けないでいたら、征矢さんが最初と最後を書いてくれて、「間は自分で体験したんでしょ」って。「作家を道に迷わせてはいけない」とリードしてくれた最高の編集者で、今でも写真に敬語で語りかけています。

 私は後ずさりタイプなので一生結婚できないだろうと思っていたし、リウマチが痛いときだったんですが、「車いすを押してあげるよ」と言われて結婚しました。思い出は全部すごく楽しくて。征矢さんは再婚なので2人子どもがいるんですけど、2人のなかにある征矢さんの遺伝子がいとしくて、仲良くしてもらっています。

 ――作品について思うことは

 食べていかなきゃという一心で描き始めましたが、今はちっちゃい子が喜んでくれたら、それだけでうれしいです。いつの間にか絵本たちが独り立ちしてくれたような気がして、見守っている心境です。

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 展覧会は29日まで。午前10時~午後8時(22日は午後7時30分、27日は午後8時30分、最終日は午後5時まで)。一般1千円、高校生700円、中学生500円、小学生300円。公式サイトはhttps://www.asahi.com/event/hayashiakiko/。(聞き手・曺喜郁)

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 はやし・あきこ 1945年、東京生まれ。横浜国立大学教育学部美術科を卒業後、イラストレーター真鍋博氏のアトリエをへて絵本作家に。「はじめてのおつかい」「こんとあき」「ひよこさん」「魔女の宅急便」(いずれも福音館書店)などを手がける。産経児童出版文化賞美術賞、講談社出版文化賞など受賞多数。