ため池決壊のおそれ、なお避難指示 豪雨対策が進まない
西日本を襲った豪雨災害の被災地で、災害が収まらない。広島県では11日、ため池が決壊するおそれがあるとして、各地で住民に避難指示が出された。全国で確認された土砂災害の件数も増え続け、新たな災害への警戒が続いている。
国土交通省は自治体から報告のあった土砂災害の件数をまとめている。11日午後1時の時点では、29道府県の483件。道府県別では、広島65件、愛媛55件、兵庫43件、高知38件などとなっている。内容別でみると、土石流は広島県東広島市で12件発生。崖崩れは愛媛県宇和島市で14件発生している。
自治体の把握が追いついていないため、確認される被害が積み増されてきた。国交省はさらに増える可能性があるとみる。
広島県福山市熊野町の山あいにある高下(こうげ)地区。谷川沿いに25世帯の住宅が点在する。
「ため池の堤にひびが入っている」。11日午前7時50分ごろ、近くの住民が市に通報。市が確認の上、午前8時41分に避難指示を出し、住民らは公民館などに避難した。住民に避難を呼びかけて回った農業の男性(66)は「よその被害を見ていると不安。このまま何もなければいいが……」と心配そうに話した。
集落の上流にあるため池の貯水量は約1万トン。古くから農業用水に使われてきた。市の調査では堤に亀裂が入り、崩れた部分もあった。市は、長雨によって池いっぱいにたまった水がしみ込んで、堤が弱ったためとみている。
午前11時14分には同市神辺(かんなべ)町西中条の二つのため池が決壊したとの情報が寄せられ、避難指示が出た。二つは決壊を確認したが、水はなくなるなどしていたとして指示は解除された。だが、午後3時41分にも市内の別のため池で避難指示が出され、下流の住民が避難した。福山市では7日夜、別のため池が決壊し、住宅の1階にいた女児(当時3)が流されて翌日遺体で見つかっている。
東広島市河内町では午後3時半に、ため池が決壊する恐れがあるとして避難指示を発令。その後、午後5時半に解除された。同市八本松町でも避難指示が出され、約400人が近くの中学校の体育館に避難した。竹原市吉名町の一部にも避難指示が出された。
ため池だけではない。11日には山の斜面が崩落するおそれがあるとして、広島市安佐北区白木町の一部に避難指示が出された。
10日には広島県府中町で町内を流れる榎(えのき)川が氾濫(はんらん)し、避難指示が出た。当時現場近くは晴れていたが、橋脚付近に土砂や流木がたまって川の水の流れを妨げ、あふれ出したとみられる。
指示は11日朝に解除されたものの、住民の不安は続く。近くで認定こども園を運営する50代の女性は「普段は底が見えるくらいの浅い川。豪雨で上がった水位は下がったが、土砂がたまっていたので早くどけないといけないと思っていた。天気はこんなにいいのになんでこんなことに」と嘆いた。
ため池の被災、10年間で9千件
農林水産省によると、降水の少ない地域や大きな河川がない地域で農業用水を確保するため、人工的に造られたのがため池で、2014年時点で西日本を中心に全国に約20万カ所ある。兵庫県が最多の4万3245カ所で、次いで広島県が1万9609カ所。江戸時代からあるものが多いという。
農家の減少などで管理が課題となる中、16年度までの10年間で、ため池の被災は9千件近くあった。その原因は豪雨が7割、地震が3割だった。
東日本大震災では福島県でため池が決壊し、7人が死亡、1人が不明となった。その後に農水省は約9万6千カ所を対象に一斉点検を実施。下流に住宅や公共施設があり、決壊すると被害が出るおそれのある約1万1千カ所を「防災重点ため池」に位置づけ、その詳細な調査を進めている。
17年3月時点までの調査で、豪雨対策が必要と確認されたのは1399カ所。そのうち対策が終わったのは5割弱。ハザードマップが作成されていたのも約1万1千カ所のうち5割弱の5441カ所だった。
総務省は5月、防災重点ため池を対象にしたハザードマップづくりが、広島県内では進んでいない点を指摘。農水省に20年度までに整えるよう求めた。県農業基盤課によると、マップができているのは全体の5%。担当者は「日頃からため池の場所をしっかり確認し、危ないと思ったらまず逃げてほしい」と呼びかけている。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。