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(11日、クロアチア2―1イングランド ワールドカップ準決勝)

 勢いそのままの先取点だった。

 試合の主導権はどちらにいくのか。しかも舞台は、W杯の準決勝。決勝がちらつき、慎重に入りたくなる試合開始直後。そんな空気を打ち破るように、イングランドの22歳、MFアリがドリブルで仕掛けた。倒され、得たFK。DFトリッピアーの右足から放たれたシュートは、クロアチアの壁を越えて鋭く落ち、ゴールネットまで届いた。ここまで、わずか5分。誰もが予期せぬ展開だった。

 主力の多くが20代半ばで、W杯経験者は5人だけ。この顔ぶれを選び、ロシアに連れてきたサウスゲート監督(47)は「この18カ月、私たちが準決勝まで進むとは、誰も思わなかったはずだ」。延長戦で負けたが、誇らしげに語った。

 2016年秋、イングランドサッカー界には暗雲がたちこめていた。アラダイス前監督が、英紙のおとり取材に不適切発言を繰り返し、1試合を指揮しただけで解任された。前代未聞の不祥事。後任に選ばれたのが、当時21歳以下代表を率いていたサウスゲート監督だった。

 思わぬ理由で大役を任された指揮官に、失うものはなかった。力が落ちたベテランを躊躇(ちゅうちょ)なく代表から外した。代わりに選んだのが、芽を出し始めた若手たちだった。

 サッカーの母国、イングランドにとって、このスポーツは特別な存在だ。自分たちが育み、世界に広めたという自負がある。1930年にW杯が始まっても、当初は大会に見向きもしなかった。最強は自分たちだから出場するまでもない、との思いがあった。

 ところが初参戦した50年ブラジル大会で、1次リーグ敗退。地元開催の66年に初優勝したが、西ドイツとの決勝では、得点を巡る微妙な判定で後味の悪さを残した。この半世紀のW杯の最高成績は90年の4強だ。

 もっと強いイングランド代表を見たい――。結果を求めて過剰なまでの愛情を注ぐファンの思いは、時には重圧となり、選手たちを押しつぶしてきた。74、78、94年大会では欧州予選を突破することもできなかった。

 今回のイングランド代表の下馬評は低く、期待も薄かった。その分、リネカー、ベッカム、ジェラードら過去の名選手たちを縛ってきた足かせは、若き選手らには無縁だった。チームが掲げたのは、4年後への布石。もろさはあったが、勢いのまま実に伸び伸びとプレーしていた。

 1次リーグで敗退した2014年大会を知る32歳のDFケーヒルは、ベンチから見守り、後輩たちをこうねぎらった。「みんなとても若い。今大会ではポジティブな経験ばかりを積んだ。これからの成長につながる。このチームを誇りに思う」

 4年後に寄せられる期待は、再び重圧となるのか、力となるのか。彼らの真価が問われることになる。(清水寿之

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