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 複数のノンフィクション作品との類似表現が問題となっていた、北条裕子さんの「美しい顔」(群像6月号)は芥川賞の受賞を逃した。選考を終えて、委員の島田雅彦さんは「事実には著作権はありませんので、誰もが書く自由はある」とした上で、「事実を吟味し、自分のなかで換骨奪胎してフィクションの中に昇華する努力が足りなかった」と受賞に至らなかった理由を述べた。

 島田さんは「美しい顔」について、「場外乱闘というか、盗用疑惑ということでネットでもかなりの議論になっている」と前置き。「いわゆる盗用疑惑ということに関しては、法的な問題には至らないケースだと考えています。それはわりと(選考委員)共通の認識でした」と語った。

 ただ、今回の問題は「震災を書く作家なら誰もが意識すること」とも。「震災そのものを扱う小説はなかなか書きにくいだろうという認識が実作者にはある。だから、それぞれに独自の装置を工夫して震災にふれる、震災体験を間接的に書くということをやってきているわけです。あまりにも生々しい被災者の声に基づいた小説は難しい」

 文芸誌掲載時に参考文献を掲載しなかったことについては、「ノンフィクションや論文とは違い、小説では慣例上してこなかった。結局は個々の作家の良心に委ねられる。(今回は)すごく教訓深い経験だったと思います」と話した。

 「美しい顔」は、津波から逃れ、避難所で暮らす女子高校生が主人公。行方不明の母を捜し、その死を受け止めるまでを描く。少女は自身の美しさに自覚的で、マスコミの求めに応じて希望や涙を見せ、高揚感と自己嫌悪に襲われる。見ることの罪深さ、見られることの苦しさに正対する。

 作品は5月に群像新人文学賞を受け、群像6月号に掲載された。石井光太さんの「遺体」(新潮社)など複数のノンフィクション作品との類似点が見つかり、編集部は主要参考文献の未表記を群像8月号(7月6日発売)でおわびした。作者の北条さんは群像新人文学賞受賞時に「被災地に行ったことは一度もない」と話していた。今月9日には「作品がもし新人賞を受賞し、単行本を刊行できるようなことがあれば、その時にそれ(参考文献一覧の記載)をすれば良いと思い込んでしまっていたのは私の過失であり甘えでした」とコメントでおわびした。

 「遺体」を発行した新潮社は「参考文献掲載のみならず、特に酷似した箇所の修正」を求めている。別の参考文献「3・11 慟哭(どうこく)の記録」の編者、金菱(かねびし)清・東北学院大教授は「震災の問題を内面化し、自らの言葉とするのは、それほどまでに、簡単ではありません」とコメントしていた。

 報道後にインターネット上で誹謗(ひぼう)中傷が相次いだことを受け、講談社は作品の評価を「広く読者と社会に問う」と自社のサイトで作品を一時、全文公開した。

 18日の芥川賞選考会ではベテラン作家らによって、これまでの経緯や文学的な評価がどうなされるのか、注目されていた。