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 西日本を襲った豪雨災害では医療機関が数多く被災した。生命に直結する施設だけに水害から重要な機能を守ることが求められるが、浸水や断水などで地域の医療に影響が広がった。専門家は対策の充実を求めている。

 川の氾濫(はんらん)で広範囲に浸水した岡山県倉敷市真備(まび)町。入院患者や避難した住民ら約330人が孤立したまび記念病院(80床)は、地区の中心的な医療機関だった。当時何が起きたのか。

 前夜から激しい雨が降り続いていた。7日午前5時過ぎ、理事長を務める村上和春医師は、入院患者が心配で病院に駆けつけた。すでに近くを流れる小田川があふれ始めていた。

 約2時間後、院内に浸水し始めた。20人ほどいた職員や看護師が超音波検査機などを2階に運び、避難した。3、4階には入院患者ら約100人がいた。

 病院があるエリアは市のハザードマップで5メートル以上の浸水の可能性が指摘されていた。ただ過去の水害で地区の浸水は1メートル未満だったため、外部電源の受電設備や飲料水は地面から高さ約1メートルの所に置いていた。

 玄関の扉が壊れ、濁流が流れ込んできた。「瞬く間に水かさが増えた」と村上さん。午後6時ごろ、水面は1階の床から高さ3・3メートル、2階のすぐ下に達した。「どこまで水が来るか不安だった」と入沢晃己(てるみ)・事務部長。自衛隊などのボートで避難してくる近隣住民が相次いだ。自家発電設備も水没した。

 真っ暗な院内。医師と看護師は懐中電灯を手に、こまめに患者の様子を見回った。骨折やリウマチ、糖尿病などの患者がいた。たんの吸引が必要な患者がいたが、機器を使えず、薬で対応した。「心配せんでいいよ」。医師や看護師は患者に声をかけ続けた。避難住民にも落ち着いてもらおうと、院内で作ったおにぎりなどを配り、廊下にシーツなど敷いて休んでもらった。

 当時、人工透析が必要な入院患者も9人いた。転院の緊急性が高いと判断。村上さんや院長、看護師らで、スマートフォンの電池が残る間にほかの病院に電話をかけ、受け入れ先を探し続けた。

 夜が明け、救助が始まった。緊急性が高い患者は東京消防庁などのヘリコプターで倉敷中央病院や岡山大病院などに運ばれた。住民らは自衛隊のボートに乗り移り、入院患者はマットレスに乗せたままボートで運んだ。全員無事だった。

 1週間たつ今も、診療は中止している。患者は全員近隣の病院や系列の診療所に受け入れてもらった。病院は水害時は3階以上への避難を徹底していたが、病院の機能を保つ「事業継続計画」(BCP)はまだ策定中だった。村上さんは語る。「もっと早く避難するなど危機管理が甘かった部分もあった。本当に水の怖さがわかった」

断水で人工透析に支障、手術も延期

 厚生労働省によると、断水や浸水、停電の被害を受けた医療機関(精神科病院を除く)は京都から長崎にかけての6府県で94施設。うち71施設は14日正午時点で、給水などの支援を必要としている。

 人工透析を行う医療機関では、断水は切迫した問題となった。腎臓の機能低下が進んだ患者は週数回、血液を濾過(ろか)する人工透析が欠かせない。透析器大手のニプロによると、一般的に1回の治療と配管洗浄などで計450リットルのきれいな水が必要となる。

 三原城町病院(広島県三原市)では、普段1日30~40人が透析を受けるが、一部の患者を断水していない別の病院に受け入れてもらった。残りの患者は医師の判断を踏まえ、普段4時間かかる透析を3時間に短縮して、水を節約している。

 三原市や同県尾道市は取水場を急きょ動かすなどして、緊急を要する病院に優先して給水を始めるなど対策を急いだ。

 7日から断水した済生会呉病院(同県呉市)は、海上自衛隊などから給水を受けたが、当初は病院で必要な1日約90トンの半分程度しか確保できなかった。

 呉市の高齢化率は全国平均より7ポイント高い33%(2015年国勢調査)で、約100人いる入院患者の多くが高齢者。猛暑で冷房に使う水を止めるわけにはいかず、不急の手術や検査機器の洗浄を控えた。12日に水道が復旧したが、万田祐一・事務部長は一時は「もはや限界に近い」と危機感を募らせた。中国労災病院(同市)も必要な水量を確保するまで、手術は全て延期し、手術などが必要な救急患者の受け入れも中断した。

 県立安芸津病院(同県東広島市安芸津町)は1階が浸水。地下の電源室などが泥につかり、自家発電も動かず、一時停電した。12日まで診療は行わず、かかりつけの患者への薬の処方などに限った。

不十分な水害対策

 医療機関にとって水害は身近なリスクだ。文部科学省が2016年にまとめた報告書では、国立大学付属病院が防災マニュアルなどで想定する「災害」は水害が地震に次いで多かった。

 15年の関東・東北豪雨でも被害が続出。最も被害の大きかった茨城県では2病院11診療所が被災した。内閣府の報告書によると、患者が病院に取り残されて孤立したり、医療機器や患者データの入ったパソコンが浸水したりした。入院を再開するのに約2カ月かかった例もあった。報告書は、施設の浸水対策や災害時の事業継続計画作りを積極的に進めることなどを提言した。

 だが、「多くの医療機関がきちんとした水害対策ができていないのが現状だ」と、医療機関の水害対策に詳しい日本大学理工学部の後藤浩教授(河川・海岸工学)は指摘する。

 後藤教授によると、診察室や手術室のドアから水が入らないように工事する▽重要機器や非常電源は上階に移す▽屋上などに置かれた水槽はポンプ施設が水に浸ると動かなくなるので、配水管からの圧力で水を出す「直結直圧方式」の水道を併用する、などの対策が有効という。

 災害時の医療体制に詳しい、国立保健医療科学院の小林健一・上席主任研究官はBCPを作るうえで、東京都が公表している策定指針や、自治体のハザードマップが参考になるという。その上で「備えはここまでやっておけば安全というものはない」と釘を刺す。

 想定外の事態では病院の機能継続が困難になる可能性があるといい、「病院同士で事前に相互援助の協定を結んでいる事例もある。災害拠点病院や近くの医療機関と協力するなど、普段から連携を進め、地域全体で対応することが大切だ」と話す。

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